従軍慰安婦の強制連行があったとする「吉田証言」や、原発事故に関連する「吉田調書」をめぐる誤報で朝日新聞への批判が加速する中、朝日を批判するメディアのあり方についても異論が出始めた。
特に異色なのが、朝日新聞に一度はコラムの掲載を断られた池上彰さんだ。池上さんは、朝日新聞批判キャンペーンを続けている週刊文春に連載を持っており、その中で「こうした一連の批判記事の中には本誌を筆頭に『売国』という文字まで登場しました」と、文春の方針も批判している。朝日の「敵失」に乗じる形で拡販を進める手法も「新聞業界全体に失望する読者を生み出すことを懸念します」と疑問視している。
「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」
2014年9月18日に発売された週刊文春9月25日号の広告は、「追及キャンペーン第5弾 捏造、隠蔽、泥棒まで!朝日の自壊」と題してスペースの6割を朝日新聞批判に割いた。その中で唯一トーンが違っていたのが、「池上彰 朝日新聞だけが悪いのか」の見出しだった。
見出しは、池上さんが文春に持っている連載「池上彰のそこからですか!?」を紹介する内容で、連載の本文は
「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」(新共同訳新約聖書「マタイによる福音書」)
という聖書の一節を引用する形で始まった。
池上さんによると、ある新聞社の社内報(記事審査報)に持っていた連載の中で新聞社の方針について批判めいたことを書いた後に、外部筆者の起用中止を通告されたという。池上さんは顛末を、
「後で新聞社内から、『経営トップが池上の原稿を読んで激怒した』という情報が漏れてきました」
と明かしている。自社の社論と合わない原稿の掲載を断るのは朝日特有の問題ではない、ということだ。池上さんはこのエピソードを「新聞業界全体の恥になる」として封印してきたが、今回の件を機に解禁することにしたという。かつて連載を持っていた新聞社も朝日新聞批判を展開したとみられ、池上さんは、
「その新聞社の記者たちは『石を投げる』ことはできないと思うのですが」
と疑問を投げかけた。
朝日新聞は、週刊文春と週刊新潮の広告掲載を拒否したことでも批判されている。池上さんは、朝日新聞以外の新聞も週刊誌の広告掲載を拒否した事例を挙げた。コラムでは、週刊現代の広告掲載が断られたことは明らかになっているが、新聞社の名前には触れていない。ただ、00年に週刊誌の広告を拒否した新聞があり、池上さんもこのことを指しているとみられる。そして、
「この時期、『週刊現代』は、その新聞社の経営トップに関する記事を立て続けに掲載していました。まさかそれで広告掲載拒否になったなどということは、ありえないと思うのですが」
と皮肉った。