2020年の東京オリンピックに向け、音声を吹き込むと瞬時に多言語に変換する夢のような翻訳システムが日本で誕生しそうだ。日本語でスマートフォンに話しかけると、英語など外国語の音声で翻訳するシステムは既に実現している。
安倍政権は成長戦略の一環として、スマホの音声翻訳だけでなく、病院で医師と患者のコミュニケーションやショッピングなどに役立つ「精度の高い多言語音声翻訳技術」を国家プロジェクトで開発。「言葉の壁」をなくす日本発の技術革新として、世界にアピールする考えだ。
すでに「VoiceTra」という音声翻訳のアプリがある
スマホには現在、「VoiceTra」という音声翻訳のアプリがある。このシステムは総務省所管の独立行政法人「情報通信研究機構」(NICT)が開発し、スマホ向けアプリとして無料で提供している。iPhoneでは「VoiceTra4U」、アンドロイドでは「VoiceTra+」という名前のアプリだ。
NICTが開発したスマホ向けアプリは、なかなかすごいと評判だ。日英中韓など27言語間の自動翻訳が可能で、このうち17言語で音声入力、14言語で音声出力ができる。「特に日英中韓の4言語は、旅行会話で高精度の翻訳(TOEIC600点レベル)を実現している」というから驚きだ。5人がそれぞれ異なる言語で同時に音声チャットすることもできる。
ひと昔前なら夢のようなこの翻訳技術は、元をたどれば国家プロジェクトの技術開発に行きつく。だから、スマホの無料アプリとして提供されているわけだ。
この翻訳技術は、観光案内程度であれば、実用段階に達している。京浜急行電鉄は2014年7月、外国人利用者に対応するため、品川駅と羽田空港国際線ターミナル駅で、NICTが開発した音声翻訳アプリを試験的に導入した。
同年3月の羽田空港国際線発着枠拡大に伴い、羽田空港から東京都心に向かう外国人が増えた。
医療やショッピングなど日常生活で実用化
「目的地への行き方やおすすめの観光スポットなど、駅係員が英語に限らず、外国語への対応を迫られていることから、様々な場面で対応できるよう音声翻訳アプリを導入した」(京急電鉄)
駅員はアプリが入ったタブレットの端末を使って外国人とコミュニケーション。英語だけでなく韓国語、中国語など27言語の翻訳機能が威力を発揮している。
政府はこの技術の精度を高めれば、医療やショッピングなど日常生活で実用化することが可能と見ている。例えば、医療機関で外国人の患者を日本人医師が診察する場合、ヘッドフォンなどウェアラブル機器を使い、患者が微妙な症状を医師に伝え、医師が病名や治療方法を的確に伝えるといったことが想定されている。ショッピングでも、外国人客の要望や好みが瞬時に店員に伝わり、きめ細かい対応ができるようになる。
多言語音声翻訳で世界の「言葉の壁」をなくす試みを安倍政権は「グローバルコミュニケーション計画」と呼んでいる。2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに実現させ、「東京をショーケースとして、日本の技術を世界に発信する」という。これを受け、総務省は2015年度予算の概算要求で、「多言語音声翻訳技術の研究開発と社会実証」のため、21億円を新規で要求。NICT運営費交付金(277億円)と合わせ、産学官の連携で研究開発と実証実験を急ぐ方針だ。