中国の独禁政策は「外資たたき」なのか 自動車メーカーなど相次いで摘発

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   中国当局がこのところ、自動車メーカーなど外資への独占禁止法違反の摘発を強めている。

   「外資たたき」と見る向きは多いが、その狙い、影響はそう単純ではないようだ。

2008年に独禁法を施行し2013年から運用を本格化

「外資たたき」の目的とは一体何か(画像は国家発展改革委員会のホームページ)
「外資たたき」の目的とは一体何か(画像は国家発展改革委員会のホームページ)

   中国の独禁政策当局の一つである国家発展改革委員会は2014年8月20日、日本の自動車部品メーカー12社(デンソー、三菱電機、矢崎総業、古河電気工業など8社と、日本精工とNTNなどベアリングメーカー4社)がカルテルを結ぶなどして価格をつり上げたことで中国の消費者が不利益を被ったとして、独禁法違反と認定し、調査に協力した日立オートモティブシステムズと不二越を除く10社に計12億3500万元(約200億円)の罰金を科した。これは中国の独禁法の罰金額としては過去最高。

   さらに9月11日には独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)と米クライスラーの販売会社が新車価格などを高く設定して消費者に不利益を与えたなどとして、それぞれ2億5000万元(約42億円)、3200万元(約5億4000万円)の罰金を科した。

   中国は2008年に独禁法を施行。2013年から運用を本格化させ、2013年1月に韓国サムスン電子など液晶メーカー6社の価格カルテルを摘発して60億円の制裁金を科したのが始まりで、同年8月には仏ダノン、米ミード・ジョンソンなど食品6社の粉ミルク価格つり上げを摘発して110億円の制裁金を科したのがこれまでの最高だった。

   2013年2月に国産の白酒(蒸留酒)メーカーも摘発し計4憶5000万元を科したといった実績はあるが、海外の目には「外資系企業が不自然に多く対象になっているとの疑念が増している」(欧州連合=EUの駐中国商工会議所の8月13日の声明)と映っているのは確かだ。

国民の不満への対応という側面も

   では、果たして「外資狙い撃ち」なのか。

   自動車関係の今回の摘発については、2010年以降、日本の公正取引委員会など日米欧の独禁当局が、競合他社と価格調整していたという同様の理由で、相次いで「クロ」認定して制裁を加えていた。このことから、「中国は独禁法の調査、適用判断など、まだ勉強途上で、海外で明らかになった今回のケースを格好の教材として実績を積んでいる」(日中関係筋)との見方もある。あるいは「独禁当局が経験を積み、外資も対象にできるほど審査などに慣れてきた」(法曹関係者)との見方もある。

   それでも、「外資たたき」の疑念はくすぶる。自動車など外資のシェアが高い分野が調査対象となるケースが多く、政府は国内業界の競争力を高めるため、外資に圧力をかけながら自国産業の保護、育成を狙っている可能性は高いと、多くの進出企業が懸念する。

   丹羽宇一郎前駐中国大使(伊藤忠商事前会長)は、摘発の対象となった製品やサービスは、半導体や自動車部品など先端分野だと指摘し、「外資をけん制し、時間を稼ぎ、その間に国内メーカーを育成しようという考えなのでしょう」(8月27日・日経電子版)との見方を示している。

   英エコノミスト誌は、発展改革委が昨年、外国企業のために働く弁護士を呼び出して、「我々の取り調べに対して異議を申し立てないように。従わなければ極めて厳しい罰則を科されることになるかもしれない」と警告したとして、「多くの多国籍企業は今なお『行政の恫喝戦略』に直面しているのが現実だ」と指摘している。

   同時に、発展改革委が独禁政策に加え、価格統制も使命としてきたことから、純粋な独禁政策ではないとの見方もある。例えば2013年の白酒の摘発は、市民からの高値批判に応えるためのものといい、一連の自動車関係の摘発も、「高価格」への国民の不満への対応という側面もあるというのだ。

自動車メーカーとして痛いところを突かれている

   確かに、今回の摘発でも、トヨタ自動車も含む日本の完成車メーカーも調査を受けており、特に問題視されているのは補修用部品の価格といわれる。新車販売では値引き競争が激しい中、アフターサービスが自動車ディーラーの貴重な収益源になるので、「純正部品」として補修部品価格を高く設定しているというわけだ。

   当局の調査を受け、すでに独アウディやベンツ、米クライスラー、トヨタやホンダが中国企業とつくる合弁メーカーが値下げ方針を打ち出しているのは、自動車メーカーとして痛いところを突かれている証ともいえる。進出企業は独禁法について、日米欧並みの法令順守体制を中国でも築くことが必須になるのは間違いない。

   政府としては、中国が国際ルールとかけ離れて独自路線を歩まないよう、今こそ政府間の対話を進める必要もあるだろう。中国企業も世界に進出しているこの時代、中国が本格的に独禁政策を展開してきたことは、国際的な政策の整合性を中国も無視できないということにもなる。日米欧としては、中国の国有企業への目に余る優遇措置の撤廃などを迫っていく「好機」が訪れたのかもしれない。

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