プロ野球、横浜DeNAベイスターズの来季の球団オーナーに、親会社でソーシャルゲーム大手のディー・エヌ・エー(DeNA)創業者、南場智子氏が就任するとの報道が流れた。
実現すれば、日本球界初の女性オーナー誕生だ。「モーレツ」な仕事ぶりとカリスマ性でDeNAを業界大手に育てた手腕が、Bクラスに沈み続けるチームを強豪に生まれ変わらせることができるか。
キャンプ地を訪問して激励、球場でしばしば観戦
「南場新オーナー誕生へ」と報じたのは、2014年9月17日付のスポーツ報知だ。DeNA広報部に確認すると、「報道されたような事実はなく、(オーナー就任の)予定もありません」と否定した。
これまで南場氏は球団経営にはかかわっていないが、今季開幕前のキャンプでは沖縄に足を運んで選手らを激励。公式戦が始まるとしばしば球場を訪れ、観戦している。最近では9月10日に本拠地の横浜で行われた試合の応援に駆けつけるなど、野球やチームへの関心は高そうだ。
南場氏は2011年、病気の夫の看病のためDeNA社長を退任し、仕事のペースを落としていた。だが夫の病状が回復したことで、2013年に取締役として復帰。同社は2014年6月、異業種である遺伝子解析サービスへの参入を発表したが、その旗振り役を務めている。
社長時代は、「カリスマ女性経営者」として注目を浴び、マスコミにも頻繁に登場していた。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本法人勤務を経て1999年にDeNAを設立。ビジネス誌「プレジデント」2014年1月13日号のインタビューで「とにかく立派なビジネスパーソンになりたくて、ガムシャラに働いてきました」と語っているが、マッキンゼー時代は早朝4時5時に「帰宅」、朝9時に出社で睡眠時間は2、3時間の毎日だったと振り返っている。
DeNAではオークションサービスから携帯電話向け交流サイト、さらにソーシャルゲームと次々に成功させていく。一方、創業当初はサービス立ち上げ直前になってシステムが全くできていないトラブルに合い、資金繰りにも悩まされるなど苦労を味わったという。既に社長を退任していた2012年には、業績が絶好調だったところに「コンプガチャ問題」が起き、足元をすくわれる形となった。最近ではスマホゲームで、「パズル&ドラゴンズ」のガンホー・オンライン・エンターテイメントに先行され、苦戦が続く。南場氏の現場復帰と新事業への進出は、DeNAにとっても起死回生のための切り札といったところだろう。
初の女性オーナーとして球界の古い体質に変化もたらすか
前出の「プレジデント」記事によると、夫ががん告知を受けた2011年、南場氏は「何のためらいもなく、私にとっての優先順位が、仕事から家庭へと変わってしまった」と社長退任を決断した。それまでの仕事最優先が一変、100パーセント外食だった生活から、夫の免疫力を高めるために慣れない料理に挑んだそうだ。「家事が苦手で、役立たずでした。でも、とにかく夫と一緒にいたかった」と必死の看病の末に、夫は快方に向かったという。
DeNAがベイスターズの経営を始めたのは2012年。1年目こそ最下位に沈んだものの、2年目の2013年は5シーズン連続最下位からの脱出に成功した。今季は9月17日現在で5位だが、終盤までAクラス入りとクライマックスシリーズ進出の可能性を残すまでにチーム状態は改善した。会社側は現時点で否定するが、来季から知名度の高い南場氏がオーナーに就任すれば、インパクトは大きい。プロ野球80年の歴史で、女性オーナーはこれまでひとりもいないからだ。明るい見通しが出てきたチームにとっても、起爆剤となるだろう。
球界に新しい風を送り込む期待もある。12球団の中で最も新しいのは2005年シーズンに参入した東北楽天ゴールデンイーグルスだが、2013年に加藤良三コミッショナー(当時)が統一球問題で批判を浴びると、三木谷浩史オーナーが「オーナー会議で加藤氏に厳しく臨むのではないか」とささやかれた。その前年、楽天は加藤コミッショナーの再任に反対票を投じるなど、「慣例」に安易に従わない姿勢があったからだ。結局、三木谷氏がコミッショナーの責任を追及したわけではなかったようだが、加藤氏はその後辞任に追い込まれた。同じIT業界の名物経営者としてならした南場氏がオーナーとなれば、持ち前のパワフルさで球界の古い体質に変化をもたらすのでは、というわけだ。
社長時代、常々「世界のてっぺんを目指したい」と言い続けていた南場氏。現時点ではオーナー就任が実現するかは不透明だが、2002年以降1度もAクラスになっていない弱小球団のオーナーとなって、プロ野球でも「てっぺん」に向けてガムシャラに挑戦する姿が見られるかもしれない。