いわゆる「吉田調書」の問題をめぐり、朝日新聞は「謝罪すべきではなかった」という「異論」が飛び出した。情報提供者を裏切ることになるというのがその主な根拠だ。
この意見には早くもネット上で批判が相次いでいるが、誤報の経緯を検証する作業と情報源秘匿の両立は難しい課題であるのは確かで、新たな問題提起をしたという側面はありそうだ。
「西山事件」では情報提供者がばれたことが問題に
異論を唱えているのは元朝日新聞記者のジャーナリスト、井上久男氏。2014年9月16日、ニュースサイト「ビジネスジャーナル」に「なぜ朝日は謝罪すべきではなかったのか 情報提供者を裏切り、公権力の監視を放棄」と題して寄稿した。
調査報道では、メディアに対して「内部告発」に近い形で寄せられる情報が取材のきっかけになることが少なくない。仮に情報源が明らかになった場合、所属先で不利益な扱いを受ける可能性がある上、その内容が「特定秘密」にあたる場合、今後は刑事処分を受ける可能性もある。
1971年の沖縄返還協定をめぐる密約を報じた「西山事件」でも、毎日新聞が密約を報じる根拠になった外務省極秘電文の入手元を秘匿できず、情報提供者の逮捕を招いたことが問題視された。調査報道では情報提供者の保護は最優先されると考えられている。
こういった点を念頭に、井上氏は、
「吉田調書発掘に当たっても、リスクを冒して朝日記者に協力した人物がいることは間違いないだろう。そうした協力者は、朝日が報道を取り消し、取材の経緯などが外部の第三者が入るような委員会で調べられれば、自分の存在が情報を提供した記者以外にばれるのではなかと大いに危惧するだろう」
と主張。朝日新聞が5月20日の吉田調書をめぐる初報を取り消したことを、
「情報提供者を裏切る信じがたい行為である」
と非難した。