二刀流の大谷翔平が10勝10本塁打を記録し、ベーブ・ルース以来の快挙としてさらに注目されている。
「天才」との声もあるのだが、このままではタイトルを取れない選手になるおそれがある。
プロ野球OBが最大級の賛辞「大谷は天才だ」
大谷が投手として10勝目をマークしたのは8月26日のソフトバンク戦。10号ホームランを放ったのは9月7日のオリックス戦だった。
この10-10はプロ野球では初めての出来事だった。それだけではなく、大リーグのスーパースター、ベーブ・ルースがレッドソックス時代の1918年に記録した13勝-11本塁打以来、64年ぶりの快記録として話題を呼んだ。
「(ルースは)伝記に出てくる選手ですね。映像で見たことがある」
大谷の感想だ。ルース以来といわれてもピンとこないだろう。ルースはその年、ア・リーグの本塁打王になっている。ボールが飛ばない時代で、2ケタ本塁打は驚きで受け取られた。
過去、打撃のよかった投手は何人もいた。400勝投手の「黄金の左腕」こと金田正一は、1962年に22勝-6本塁打。その前には、プロ野球初の完全試合を達成したことで知られる藤本(中上)英雄が50年に26勝-7本塁打を記録した。
金田や藤本は登板した試合の打席で打つことがほとんどで、大谷のような二刀流として使われていたわけではない。「打撃のいい投手」という位置付けだった。二人がもし大谷のように起用されたら本塁打はもっと打っただろう。
二刀流論争はなりを潜めている。プロ野球での1勝、1本のホームランが大変なことを知っているOBのなかには、大谷の数字に「天才だ」と最大級の賛辞を贈る。
タイトルホルダーにならないと名前が残らない
ただ声を大にして言っておきたいのは、このままでは投手部門、打者部門のタイトルが取れなくなるのではないか、という点だ。プロ野球選手は個人記録が勝負で、それが生涯を通じて語られる。数字はよくてもタイトルホルダーにならないと、名前が残らない。そのような選手はたくさんいる。
よく首位打者や本塁打王争いで、ライバルがいる相手との試合では、四球で勝負を避けたり、試合を欠場することがあった。そのときは非難を浴びるけれども、10年、20年と経てばタイトルホルダーと取れなかった選手では天と地ほどの違いがある。
大谷の場合、ルーキーだった昨年、なぜ新人王に挑戦させなかったのか不思議でならなかった。新人王のチャンスは一生に一度しかない。投手でも打者でもどちらかに絞って狙うべきだったと思う。
今のままでは投手としての勝利、打者としての打率や本塁打などは、物理的に数字が伸びない。類い希なる素材だけに惜しまれる。
「記録に残る選手」と「記憶に残る選手」。
どちらも素晴らしいが、野球人としてはやはり前者だろう。両方を満足させることができればスーパースターである。大谷の本心はどうだろう。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)