新日鉄住金名古屋製鉄所(愛知県東海市)で2014年9月3日、15人が重軽傷を負う爆発事故が発生、同製鉄所の安全管理体制が疑問視されている。同製鉄所での大規模なトラブルは14年1月以降、5件にものぼるためだ。
事故で停止した高炉やコークス炉の一部の操業は5日以降、順次再開されているが、抜本的な再発防止策は先送りした形で、地域住民からは「なぜ再稼働を急ぐのか」と批判や不安の声が上がっている。
14年1月に2回、6、7月にそれぞれ1回、事故が発生
今回の爆発事故は、燃料となる石炭をためておく石炭貯蔵施設で発生した。爆発が起きる約2時間前、石炭貯蔵施設でぼやが起き、市消防本部などが確認したが、炎が出ていないことなどから撤収。その後、現場周辺を調査していた同製鉄所の社員らが事故に巻き込まれた。
同製鉄所では14年1月に2回、6、7月にそれぞれ1回、停電が原因で大量の黒煙が発生する事故が発生した。同製鉄所は所内の電気系統を総点検すると同時に、8月には外部有識者を加えた事故調査委員会を設け、10月をめどに再発防止策をまとめる予定だった。
今回の事故は停電がきっかけとなった過去4回のトラブルとは異なるが、「同じ新日鉄住金の施設でも、君津製鉄所や鹿島製鉄所で事故が相次いでいるという事実はない。一つの製鉄所で大規模なトラブルが短期間に何度も繰り返し起こるのは異常で、何か根本的な原因があるとしか思えない」(製鉄業界関係者)との見方が強まっている。
名古屋製鉄所は1958年に発足し、設立から50年を超えている。国内の製鉄所は建設から40~50年経っているものが多く、施設の老朽化が事故の一因との指摘は根強い。
熟練技術者が減少したことが背景にあるとの見方も
ただ、ある製鉄業界関係者は「建設当初は50年ぐらいが寿命だと言われていたが、その後、補修技術が高まり、寿命は延びている」とする。新日鉄住金自身も老朽化が原因との指摘は否定する。だが、製鉄関係者の中には「補修技術で何とか長生きさせているというのが実態で、施設が古くなれば、さまざまなトラブルが生じる可能性は必然的に高まる」とする。
バブル経済崩壊後の大規模なリストラや団塊世代の大量退職などで、熟練技術者が減少したことが背景にあるとの見方もある。新日鉄住金を含め、鉄鋼各社は十分に対応済みだとするが、完全否定できないも現実だ。
一方、「名古屋製鉄所の重大な位置づけが微妙に影響しているのでは」(業界関係者)との指摘もある。名古屋製鉄所はトヨタ自動車をはじめ自動車大手向けの重要な生産拠点で、鋼材供給が最優先とされる傾向があるとの見方だ。
「再発防止策を待たずに、稼働を優先させていいのか」
今回の爆発事故でも、名古屋製鉄所関係者は自動車メーカーへの説明に奔走、進藤孝生社長は、メーカー向けの鋼材供給について「全社挙げて努力する」と強調し、国内の他の製鉄所から代替品を供給することも検討するとした。
実際、地元警察への了解をとったとはいえ、名古屋製鉄所のコークス炉1基は事故2日後の5日夜には操業を再開、高炉1基も6日朝再稼働した。地元からは「再発防止策を待たずに、稼働を優先させていいのか」との批判が上がっている。
危機管理に詳しい専門家の中には「過去4回の事故を受けて対策は十分とっているはずなのに、なお事故が続くのは、組織の運営態勢に根本的問題がある可能性がある」と指摘する人もいる。新日鉄住金は名古屋製鉄所の組織を抜本的に見直す必要がありそうだ。