生きた証シンポジウム【岩手・大槌町から】(61)

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   震災で犠牲になった町民の記録を残す大槌町生きた証プロジェクトのシンポジウム「鎮魂の対話」が2014年9月6日、大槌町の中央公民館で開かれました。岩手県花巻市出身で京都市在住の哲学者で宗教学者の山折哲雄・国際日本文化研究センター名誉教授が講演し、「東京一極集中の陰で東北は見捨てられ、置き去りにされようとしている。死者の魂を感じ、信ずることなくして真の復興はあり得ない」と語りかけました。


講演する山折哲雄氏=2014年9月6日、大槌町中央公民館
講演する山折哲雄氏=2014年9月6日、大槌町中央公民館

   山折氏は、「死者思わずして復興なし」という標題で講演しました。冒頭、震災の呼称について、「東北地方太平洋沖地震から、東北という文字が消され、東日本大震災に統一されていった。悲しみと怒りを感じる」と述べ、日本の歴史の中で差別されてきた東北を象徴する表れという見方を示しました。また、東京オリンピックの誘致に触れ、「明らかに東京は東北を見捨てようとしている。置き去りにして前に進み始めている」と批判しました。

   山折氏は生きた証プロジェクトの意義について、「人間はつらい体験を忘れようとする。同時に忘れてはいけないという声が聞こえる。そのジレンマに生きた証はかかわっているのかもしれない。人間の記憶、共同体の記録を何が何でも後世に伝えていかなければならない」と話しました。


山折哲雄氏の講演に聴き入る聴衆=2014年9月6日、大槌町中央公民館
山折哲雄氏の講演に聴き入る聴衆=2014年9月6日、大槌町中央公民館

   シンポジウムでは、山折氏の講演の後、関係者によるパネルディスカッションがあり、プロジェクトについて論じ合いました。司会は岩手大学地域防災研究センターの麦倉哲教授で、パネラーは、山折氏に、生きた証プロジェクト実行委員長の高橋英悟吉祥寺住職、プロジェクトのアドバイザー吉川忠寛防災都市計画研究所長、畠山秀樹岩手日報釜石支局長、東野真和朝日新聞編集委員の5人。この中で、高橋住職は「先に還った人たちの分まで残された私たちがしっかり生きる。そんな力を与えてくれるようなプロジェクトにしていきたい」と語りました。


生きた証プロジェクトについて論議するパネラー=2014年9月6日、大槌町中央公民館
生きた証プロジェクトについて論議するパネラー=2014年9月6日、大槌町中央公民館

   シンポジウムの参加者はアンケートに感想をこう記しました。「1割近くの住民が亡くなった大槌町民はみんなが遺族のようなもの。自分の大切な人を決して忘れることなく、残したいという思いはだれの心にも必ずあると思う」「私も大切な家族が犠牲になった一人です。3年半経ちますが、やはり何でこうなったかという思いはどうしても消えません。生きた証プロジェクトに話をすることによって少しでも楽になれたらと思います」


   生きた証プロジェクトは不条理に生を奪われた犠牲者一人ひとりを忘れずに供養し、震災を風化させずに後世に伝えるのが目的です。1284人の犠牲者全員を対象に、遺族の方々から話を聞き、記録にまとめます。遺族や町内会代表、町議、学識経験者14人で構成する実行委員会が組織され、この日のシンポジウムは実行委員会が主催して開かれました。

(大槌町総合政策課・但木汎)


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