テニス全米オープン男子シングルスで、錦織圭選手が日本人としては初めて決勝のコートに立つ。トップ選手を次々と破っての快挙に日本中は湧き、中継する有料の衛星放送「WOWOW」には、加入申し込みが殺到しているという。
せっかくの機会に大勢で応援しようと、パブリックビューイングも予定されているようだ。しかし、放送局に許可を得ず大型スクリーンを設置してテニス中継を流すのは違法行為となる恐れがある。
著作権法100条「テレビジョン放送の伝達権」がポイント
世紀の一戦となる全米オープン男子シングルス決勝だが、地上波の放送予定はない。各局が放送権を獲得していなかったためで、唯一生中継するのが、WOWOWだ。錦織選手の晴れ舞台を視聴するには、有料契約を結ぶしかない。1991年の開局当時から全米オープンを放送し続けており、2008年以降はテニスの4大大会すべてを扱っているWOWOWにとっても、錦織選手の快進撃は契約数を一気に伸ばす好機だ。
錦織選手と縁がある人たちは、特に応援熱が高まっているようだ。その手段として活用されているのが、パブリックビューイング。出身地の島根県松江市では、準決勝が行われた日本時間2014年9月7日深夜1時から、市内のホテルに市民が集まって声援を送った。同9日朝6時に始まる決勝も、同様の催しが予定されているようだ。スポンサー企業も、早朝から社内のホールで社員が観戦する準備を整えていると報じられた。平日朝の試合だが、国民的な注目が集まっているだけに、飲食店の中にはサッカーW杯のようにパブリックビューイングを計画しているところがあるかもしれない。
実は、放送事業者の許可を得ずにパブリックビューイングを実施するのは法的に問題だという。弁護士の國安耕太氏が、「月刊パテント」2014年4月号の中で詳しく解説している。ポイントは、著作権法100条で定められている「テレビジョン放送の伝達権」だ。テレビ放送を受信して「影像」を拡大する装置を用いての放送は、放送事業者の権利だと規定している。
このため、街頭でオーロラビジョンを通して、またスポーツバーなどで大型スクリーンにプロジェクターで映像を投影してパブリックビューイングを実施する場合は、放送事業者の許諾を得なければならない。無許可での放映は「伝達権を侵害する行為」として違法となるという。
飲食店が無許可で中継流しても「把握しきれない」
法律では、配信コンテンツが有料か無料かを問わず、放送事業者の許可なしによる大型スクリーンでのパブリックビューイング自体を規制している。仮に地上波で全米オープン決勝の放送が予定されていたとしても、局側の了解をとらねばならないわけだ。
しかも國安弁護士は、「たとえ非営利目的で、かつ無料で行う放送であっても、放送事業者の許諾を得ないで行うパブリックビューイング等は、違法となる」と説明している。近所の人たちや友人家族を集めて、自宅でテレビを囲んで番組を楽しむのは構わない。ところが、「スポーツ中継を流す装置」がテレビでない別の巨大ディスプレーに変わると、同じ状況でも話が違ってくる。
錦織選手の試合のパブリックビューイング実施についてWOWOW広報に電話取材すると、これまでに許諾を求めてきた団体などはないそうだ。法的には、会社で応援するために、会議室にある大型テレビをみんなで視聴するのであればセーフ。だが、数百人単位で人が集まって大型スクリーンを使ってテニスの生中継を流すとしたら、「非営利目的であっても、よくはありません」と指摘する。基本的には、契約者の家庭でテレビを通じて番組を楽しんでもらう想定なのだ。
同じく、スポーツバーなどで営利目的にパブリックビューイングを行うのは歓迎しない。「ただ、どの飲食店で実施されているかは把握しきれないので……」と、少し困った様子だった。