金融機関が経営破たんに備えて預金保険機構に拠出している「預金保険料」が、初めて引き下げられることになりそうだ。実現すれば、預金保険制度ができた1971年以来初めてのことになる。
金融機関の破たんが減り、保険料を原資にした積立金が順調に増えているためで、銀行などにとっては負担軽減につながる。ただ、引き下げ幅や引き下げ分の預金者への還元をめぐっては銀行界と政府・預金保険機構のあいだで考え方に溝があり、激論が予想される。
保険料率は0.05%台か、0.04%台か
預金保険料は、銀行や信用金庫などが経営破たん時の預金払い戻しに備えて、預金保険機構に支払っている。保険料率は1995年度までは預金量の0.012%だったが、バブル崩壊で1990年代に北海道拓殖銀行や日本長期信用銀行などの大型破たんが相次いだため、1996年度に一気に0.084%まで引き上げられた。
しかし、その後は3メガバンクの誕生など業界再編や不良債権処理が進み、金融機関の財務体質は強化されてきた。2008年のリーマン・ショック時も大型破たんは起こらず、国内での経営破たんは2010年の日本振興銀行が最後だ。
一時はマイナスに陥っていた積立金は、破たん処理に投じられることが減ったため、2014年度末に2兆円超に回復する見通しという。
こうした状況を受け、預金保険機構は7月、有識者や銀行界などで構成する「預金保険料率に関する検討会」を設置。保険料率の引き下げの是非について検討を始めた。本格的な議論はこれからだが、早くも銀行界と金融当局のあいだで対立の火種がくすぶり出している。
金融当局は2014年度末に積立金を2兆円、その後の7年まで5兆円にすることを想定してきた。このシナリオ通りに進めば「保険料率を0.05%程度まで引き下げられる」との立場だ。
一方、銀行界は、2014年度末の積立金が想定を上回る見込みのうえ、金融機関の財務体質が改善し、破たんリスクが減少していることから「0.04%台への引き下げが可能」と要望している。
しかし、金融当局は大幅な引き下げには慎重姿勢を崩していない。
浮いた資金の使い道は「預金者への還元」か?
預金保険料は預金量に料率を掛けて算出するため、預金量が多いほど多額になる。現在、金融機関が支払う保険料の総額は年間約6000億円。このうち、3メガバンクを含む5大銀行グループだけで年間約2000億円と3分の1を拠出している。保険料率が0.05%程度に下がった場合、保険料の総額は年約4000億円に減る計算。金融機関の負担軽減に直結するだけに、0.001%をめぐる攻防が繰り広げられる見通しだ。
保険料率の引き下げで浮く資金の使い道も論点になりそう。政府は引き下げが実現すれば、金融機関に負担軽減分を利用者へ還元するよう求める考えで、預金者の不満が強い過去最低水準の預金利息の引き上げに充てる案や、ATM(現金自動受払機)手数料を引き下げる案などが浮上している。
これに対し、金融業界は「預金保険制度は経営破たんに備えるのが目的。破たんリスクが下がったからといって顧客に還元するのは筋が違う」(メガバンク幹部)と警戒を強めている。
検討会は2015年3月末までに結論を出す方針だが、まだ紆余曲折がありそうだ。