一心不乱に立ち食い
列に並ぶことを諦めて目黒駅方面に戻ると、すでに焼きさんまの配布が始まっていた。来場者の持つ紙皿の上に焼きたてのさんま、すだち、大根おろしが流れ作業のように次々と載せられる。それらを受け取り次第、醤油、手ぬぐい、ティッシュケースが等間隔に置かれている「さんま食べ処」なる長テーブルに位置取り、一心不乱に立ち食いする。
配布が始まると、現場の係員はにわかに殺気立った。来場者案内の手際が悪かったのだろうか、「おい!!後ろ遅せぇよ!早くしろよ!」「何やってんだよ!」と係員が係員に対し怒号を上げる光景も。紙皿を持ちながら右往左往する来場者をスムーズに「さんま食べ処」まで送らなければならない。ある程度の人数が揃っているとはいえ係員も一苦労である。「美味しいさんまをみんなで食べる」ほのぼのとした祭りにあまり似つかわしくない様子だった。
その後、シャツに染みついた煙のニオイを気にしながら目黒駅へと戻った。
最初は「町内会のお祭りのよう」だったものがここまで大規模になったのはいつ頃なのか。
始まった頃の「さんま祭り」に訪れたという都内在住・40代男性は「東日本大震災後ではないか」と語る。当初は「焼きさんま配布」以外の、寄席などのイベント目当てに訪れる人も多く、行列ができることもあまりなかったという。しかし、じわじわと認知度が高まってきたところに、東日本大震災が発生。その後に状況は変わる。「被災地応援」「復興」でマスコミに紹介され始めると、「無料」という要素が醸し出すイベント感も相まって見る見るうちに来場者が増えていった。
品川経済新聞によると「朝6時の時点で既にたくさんの人が集まっていた」「昨年よりも来場者は増えている」という。果たして記者の見た最後尾の人々は無事焼きさんまを口にできたのだろうか。