ハイブリッド(HV)車の部品などに使われるレアアース(希土類)などの輸出を中国が制限している問題をめぐり、日米欧が世界貿易機関(WTO)に訴えた審理で、中国の「敗訴」が事実上、確定した。
中国は半年から1年以内に是正措置を講じる必要があり、是正されなければ、日米欧は関税の引き上げなど対抗措置をとることができる。
中国規制はWTO協定違反だと日米欧が主張
2014年3月には第1審に当たる紛争処理小委員会(パネル)が、中国の規制はWTO協定違反だとする日米欧の主張を認める判断を下したが、中国が最終審に当たる紛争処理上級委員会に上訴していた。同委員会が8月7日、改めて日米欧の主張を支持する報告書を公表、WTOは近く開く紛争解決機関会合で正式に採択する。
レアアースは、蓄電池や発光ダイオード、磁石などのエレクトロニクス製品の性能向上に必要な材料で、例えばHV車に不可欠な高性能磁石を作るためにレアアースの一つ、ジスプロシウムを使うなど、産業のビタミンとも言われる。
レアアースは産地が偏在し、ピーク時に世界需要の97%を生産していた中国は、これを戦略物資と位置づけ、2006年からレアアースなどに5~25%の輸出税を課し、2010年7月には輸出枠の大幅削減を発表。中国の狙いは元々、輸出制限を通じた資源の価格引き上げだったが、日本に対しては同年9月の沖縄県・尖閣諸島沖での中国漁船衝突事故に対する外交カードとしても利用した。このため日本の官民が真っ青になってレアアース確保に奔走したことは記憶に新しく、欧米の危機感も高まった。そして、2012年3月、日米欧は、輸出制限や輸出税をかけることを原則禁じているWTO協定を根拠に提訴していた。
日本が中国を直接訴えた初めての案件
中国は「環境や天然資源保護のため」と、協定の例外規定の適用を訴えたが、最終報告書は中国の措置を「国内産業を恣意的に優遇する政策」と断定。「環境や天然資源保護のためなら、(WTOが認めている)国内生産を制限する代替措置をとるべきだ」と判断した。
このニュース、WTOで日本が中国を直接訴えた初めての案件で、大いに騒がれていいところだが、各マスコミの報道も比較的地味だ。というのも、中国の輸出制限に対し、日本はレアアースの再利用や他素材の開発に力を入れ、成果を上げてきているからだ。
例えば、双日などが豪州の資源会社とレアアースの長期供給契約を締結、カザフスタンでは住友商事などのレアアース精製工場が完成。インド政府は、対日輸出を正式承認。日本の排他的経済水域(EEZ)内の南鳥島沖などで有望鉱床が発見され、資源化計画が進む。自動車産業では、リサイクルやレアアースを使わないモーターの開発が進行し、最近も、大同特殊鋼がジスプロシウムを使わない高性能磁石を開発してHV車向けとして実用化を目指すといったニュース(2014年3月)が頻繁に流れる。
この結果、レアアースの国際価格は全般に下落傾向が続く一方、日本の輸入量は2010年の2.8万トンから2013年には1.4万トンへと半減している。
「中国にとっても教訓になったはず」
このレアアース問題は、反日暴動による日系工場、店舗などの被害なども含む「チャイナリスク」の象徴とも言われた。「資源を政治利用したことが顧客離れにつながったことは、中国にとっても教訓になったはず」(外交筋)とはいえ、行政の恣意的な裁量への懸念はなくならないとの見方が強い。それでも、政治的な対立に過剰に振り回されずに、第2の経済大国との経済関係を成熟させる努力は続けざるを得ない。「その意味で、今回のように国際的な道理に基づいて毅然と、粛々と対処し、国際ルールに従うのが中国の利益にもなることを粘り強く理解させていくことが重要」(経産省筋)といえそうだ。