1年に1度の「恒例行事」と化してきた、米アップルの「アイフォーン(iPhone)」新モデル投入。アップルが2014年9月9日にイベントを開催すると発表したため、この場で「iPhone 6」が披露されるとの憶測が飛び交う。
リーク情報が流れるなか、以前から言われていた「画面の大型化」は、どうやら既定路線のようだ。決済システムも搭載されるとの話も出ている。これらが正しいとすれば、「iPhoneらしさ」が失われるのではと懸念する意見もある。
消費者が高級と感じる大型画面、世界の潮流に従ったか
アップルは次期iPhoneの具体的な機能や発表のスケジュールについて、公式には一切明らかにしていない。だが過去のiPhone発売前と同様にファンの間で多くのうわさが立ち、製造を請け負う中国や台湾から時折生産にまつわる情報が漏れていた。「9月9日発売」を信じて、米ニューヨーク中心部にあるアップルストアの旗艦店前には、9月3日時点で既に寝袋や座椅子の「行列」ができている写真が、ツイッターに投稿された。カウントダウンは始まっている。
通称「iPhone 6」では、画面サイズが4.7インチと5.5インチの2種類が開発されるとの見方が有力だ。実現すれば、従来の4インチと比べて大型化する。近年は韓国サムスン電子のスマートフォン(スマホ)「ギャラクシー」をはじめ、スマホとタブレット型の間と位置付けられる「ファブレット」が人気だ。日本国内でも、調査会社MMD研究所が2014年9月2日に公表した「新iPhone購入意向調査」の結果を見ると、興味があるサイズは「5.5インチ」が40.7%、「4.7インチ」が20.1%、さらに「両方のサイズ」が31.0%と、大画面化を肯定的にとらえる回答が9割を超えていた。
「世界のマーケットを見ると、(米グーグルの基本ソフト)『アンドロイド』搭載スマホは大型ディスプレーのモデルが売れ行き好調で、主流となっています。動画が見やすいといった機能的な面はありますが、大きい方がより高級感があるととらえる消費者も少なくありません」
こう話すのは、青森公立大学経営経済学部准教授の木暮祐一氏。世界の潮流にアップルも従い、画面拡大に踏み切ったとも思える。一方で、スマホ市場をけん引してきたiPhoneがアンドロイド勢と同じような端末になるのではとの危惧も口にした。3年前に亡くなったアップル創業者、スティーブ・ジョブズ氏の思想が詰まった斬新さが魅力だったiPhoneが、あまたあるスマホの「ワン・オブ・ゼム」になり、存在感が薄れてきているのではないかと指摘する。
「アンドロイド寄り」の改良でファンの反応どうなる
もともとiPhoneの画面サイズは3.5インチだった。だが2012年9月発売の「iPhone 5」で4インチに拡大。今回、最大5.5インチとなれば見栄えや使用感が大きく変わるだろう。木暮氏は、「初期の3.5インチが最も手になじんでいました。片手で操作できる絶妙なサイズだったと思います。4インチになって少々大きいなと感じただけに、さらに大型化した場合にiPhoneファンが好印象を持つかどうか、疑問です」と語る。服のポケットに入れて気軽に持ち歩けなくなる不安も示した。
モバイル決済機能の搭載も、広くうわさされている。近距離無線通信(NFC)チップを組み込み、クレジットカード会社と提携して、買い物した際に店頭の読み取り端末にiPhoneをかざして支払いを済ませる仕組みを整えるという予測だ。機能そのものは、「『おさいふケータイ』が発達していた日本では真新しいものではなく、むしろアンドロイド陣営と比べて出遅れた感もある」(木暮氏)。ただし、世界的にスマホでの決済が普及してきたとアップルが判断したからこそ、このタイミングで導入を決めたとも考えられるようだ。
もともとiPhoneは「高機能合戦」に勝ち抜いてきたスマホではなく、端末そのものの魅力が世界中のファンをとりこにしてきたと木暮氏は話す。それだけに「アンドロイド寄り」の改良が頻発した場合、不満を感じて離れていく長年の利用者が出てこないとも限らない。逆にiPhoneの大画面化で、選択肢が増えたアンドロイドユーザーを取り込める可能性もある。ここに来て「5.5インチ版は発売見送り」の報道も飛び出した。公式情報がゼロの状況で、事態がどう転ぶか不透明だが、「ジョブズ後」3年目のアップルのiPhone戦略は吉と出るか、それとも凶となるのか。