「見えざる手」が動いたという指摘
もう一つ、この夏の異変とみられるのが円相場。ウクライナや中東の「地政学リスク」が晴れず、こんな場合、近年は「安全資産=円」を買う動きが強まることが多い。ところが、8月には7か月ぶりに1ドル=104円台半ばの円安水準を記録するなど円安基調で推移している。もちろん、米国の景気回復で量的緩和政策の早期解除の可能性の高まり、米国の金利上昇による日米金利差の拡大を見越してドルが買われやすい地合いはあるが、「米国の量的緩和の終了が早くて10月、利上げはまだ先の話で、これだけで今の円安は説明しきれない」(金融筋)。
ではなぜ円安が進んだのか。理由の一つとして市場でささやかれているのが「見えざる手」。ある市場関係者は「8月20日前後、円高に傾くたびに断続的に円売りが出た」と指摘する。
その「手」とは、ゆうちょ銀行と、かんぽ生命のこと。ゆうちょ銀の外債を中心とする「その他の有価証券」の残高は6月末で約25兆円と、1年前から6.8兆円増え、かんぽ生命も外債・外国株の運用残高が約1兆6000億円と、1年で7000億円増えている。国内低金利の中、ゆうちょ銀、かんぽ生命とも外債投資を積み増す可能性が高いという。
さらに、GPIFの投資見直しには、国内株だけでなく海外投資の拡大も含まれる。市場では「秋以降、ファンド勢がGPIFの動向を材料に円安を仕掛ければ、年内に110円台まで円安が進む可能性もある」(大手証券)との声もある。円安は株価を下支えする材料になる。
ただ、こうした公的資金をいかに動員しようと、肝心の景気自体が失速すれば、株価も落ち込む。4月の消費税増税前の駆け込み需要からの4月以降の反動減が、夏以降、持ち直すのかどうか。政府は「反動減は想定の範囲内」(内閣府)と繰り返すが、民間では慎重な見方が増えている。
特に年末には消費税率を2015年10月に10%に上げるかの判断時期を迎える。景気が落ち込んで株価が下がれば増税反対論が勢いを増すのは必至。もし増税を先送りすれば財政再建に疑問符が付き、「失望した外国人が日本の株や国債売り、つまり『日本売り』に走る可能性がある」(準大手証券)。
「景気動向が思わしくないほど、公的資金によるPKO頼みが強まる」(金融筋)とのささやきも、あながち穿ちすぎとも言えないようだ。