生活保護費を三重に受給していた詐欺事件が明るみになった。ネット上では、「どうしてこんなことができるのか」と驚きと怒りの声が上がっている。
報道などによると、三重受給が分かったのは、ひょんなきっかけだった。
携帯電話の通話履歴を調べていて発覚
静岡県警が2014年1月、別の窃盗事件で逮捕した住所不定、無職春日野美保被告(48)(静岡地裁で公判中)について、携帯電話の通話履歴を調べていたときだ。東京都三鷹市のほかに、神奈川県相模原市からも同時に生活保護を受けていたことに気づき、三鷹市に連絡した。
相模原市によると、不正受給については、このときに三鷹市のケースワーカーからの電話で分かった。春日野被告は、三鷹市で09年5月から生活保護を受けていたが、相模原市からも12年12月から13年9月まで同時受給していた。支給を打ち切る14年1月までに、相模原市は約176万円をだまし取られたことになる。
その後の調べで、春日野被告は、13年10月からは、神奈川県藤沢市からも約85万円を不正受給していたことも分かった。さらに、13年3~5月は、神奈川県川崎市からも約64万円をだまし取っていたとして、静岡県警が14年9月1日に春日野被告を再逮捕するまでになった。この期間は、3市から三重受給していたことになる。
報道によると、春日野被告は、東京都の文京、中野、世田谷、豊島の各区や武蔵野市からも不正受給していた可能性があり、8市区での受給額は計1300万円にも上るという。三重受給の期間は、ほかに3回あったともされている。
驚きの不正内容に、ネット上では、「審査がザルすぎる」「不正が出来る仕組みをなくせ!」と怒りの声が上がった。また、「どうせこんなの氷山の一角でしょ」「マイナンバー制度の導入で、このような犯罪を減らさないとだめだ」といった指摘も出ている。
自治体間で受給情報が共有されておらず
二重、三重もの不正受給について、なぜ自治体は見抜くことができなかったのか。
川崎市の生活保護・自立支援室では、こう説明する。
「春日野被告は、生活保護の申請があったときは、市に住民登録をしていない状態でした。しかし、『麻生区の知人宅にいそうろうしていたが、出ることになり、住むところがない』と相談があったので、一時的に県立女性相談所に入ってもらいました。これで居住実態があることになりますので、保護費を支給しました」
春日野被告はその後、民間の女性保護施設に住んだり、知人宅に戻ったりした。知人宅にいたときは、本人に電話で住んでいるかを確認したという。しかし、多摩区のアパートに住みたいと申し出たものの、賃貸契約がされていないうえ、本人の行方が分からなくなったため、市が支給を打ち切った。
春日野被告は、どの自治体にも、この川崎市のケース同様、「住むところがない」と言って生活保護を申請していたようだ。
生活保護の受給状況については、自治体間で情報が共有されておらず、担当者は「生活歴を詳しく聞くなど把握に努めていますが、故意に隠されると調べるのは難しい」と漏らす。
川崎市での不正受給は、春日野被告が2014年6月に藤沢市への詐欺容疑で再逮捕されたときに、神奈川県からの情報提供をもとに調べて初めて分かったという。担当者は、「一自治体ではいかんともしがたく、自治体間の情報システムなどを国で検討してほしい」と話す。ただ、マイナンバー制度などの整備は、個人情報保護やコストの問題があり、国レベルでもなかなか進んでいない模様だ。