10代を中心とした若者向け衣料を販売する「アバクロンビー・アンド・フィッチ」は2014年8月28日、来春から北米での新製品に自社ロゴを入れないデザインに変更すると発表した。
「A&F」など、日本でもおなじみのロゴが姿を消すのはなぜか。背景には「アバクロをホームレス御用達ブランドにしよう」というアメリカの若者たちによる運動があるようだ。
ホームレスにアバクロ製品を配って回る
同社製品はTシャツやパーカの胸元に大きく「A&F」「ABERCROMBIE」など、社名ロゴを入れたデザインが特徴的だ。ほかのファストファッションブランドに比べて割高な価格帯ながら、10代の若者を中心に世界各国で人気を集めていた。
しかし、5~7月期の売上高は前年同期比6%減の8億9100万ドルと停滞した。同社のマイク・ジェフェリーCEO(最高経営責任者)はアナリスト向け説明会で、業績改善策として、「春シーズンは北米でのロゴ事業をなくす」とロゴデザインの廃止を明らかにした。
若者の好みが変わってロゴ入りデザインがはやらなくなったため、という見方があるが、話はそう単純ではなさそうだ。アメリカの流通事情に詳しいコンサルタントの後藤文俊さんは自身のブログで「『アバクロ・ホームレス・ブランド』運動が背景にあったことは否めません」と指摘する。
この運動はジェフェリー氏の過去の失言に端を発する。ニュースサイトによるインタビューで、「はっきり言えば、アバクロは友達が多くて魅力的な、いかにもアメリカ的な子どもたちを相手に商売をしている。しかし多くの人は、こうしたアバクロの服になじまないし、なじむこともできないのです」と発言。この発言が、女性向けに大きめのサイズを展開していないこともあり、「太った人を差別している」と受け止められ、一部で抗議や不買運動が広がった。
ジェフェリー氏は謝罪に追い込まれたが、批判は依然として収まらなかった。映像作家のグレッグ・カーバー氏はリサイクルショップでアバクロの商品を買いあさり、ホームレスに配って回る動画を2013年5月に公開した。その中で同氏は「アバクロを世界一のホームレスのブランドにしよう」と呼びかけた。
SNSで拡散、メディアにも取り上げられた
動画はツイッターやフェイスブックで瞬く間に拡散され、1年余りで800万回以上の再生回数を記録している。騒ぎはタイムやハフィントンポストなど主要メディアにも取り上げられて、ますます広まった。
もともとアバクロは筋骨隆々の男性モデルを起用するなど、セクシーさや健康的なイメージを売りにしてきた。ブランドイメージを損ねかねない運動について、前出の後藤さんは「あまり褒められた抗議活動ではないが、『Abercrombie & Fitch』『A&F』のロゴ入りファッションを着ることに抵抗を感じるだろう。これで、ますますアバクロのロゴ入り衣料が売れなくなったのです」と語っている。
もちろん、ジェフェリー氏はロゴ廃止が運動の影響によるものだとは話していない。しかし、現地のツイッターを見ると、「ロサンゼルスのホームレスはアバクロのモデルみたい」「アバクロが40%オフのセール中だ!買ってホームレスに寄付しよう」などの書き込みが相次いでいて、運動の余波は大きいようだ。