「ギネスもの」軟式高校野球で延長50回 優先すべきは「高校生の夢」か「健康管理」か

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   軟式高校野球の選手権で4日続いた準決勝の中京-崇徳は2014年8月31日、延長50回で決着した。

   この試合、「思い出」か「健康管理」か、で今後論議を呼ぶだろう。

4日間で786球、全試合で1047球

「ゼロ行進」はスコアボードから大きくあふれ出した
「ゼロ行進」はスコアボードから大きくあふれ出した

   日ごろ注目を集めることがほとんどなかった高校の軟式野球。それが突然、マスメディアに追いかけられた。準決勝の中京(岐阜)-崇徳(広島)は8月28日に行われたのだが、両校無得点でサスペンデッド(一時停止)ゲームに。

   翌29日、さらに30日も得点が入らず。3日間、15回ずつ戦い、得点が入らなかった。4日目の31日、やっと中京が50回表に3点を入れ、そのまま3-0で勝負がついた。両校とも投手は1人、すなわちエースが投げ合った。その投球数は次の通り。

   ▽ 中京・松井 215、217、203、74=計709

   ▽ 崇徳・石岡 177、214、226、72=計689

   中京は崇徳を振り切って勝った後、同じ日に三浦学苑(神奈川)と決勝を行い、2-0で勝ち、2年ぶり7度目の優勝を飾った。松井はリリーフで登板、ピンチをしのぐと最後まで投げきった。投球数77。4日間で786球、全試合で1047球を投げた。

「歴史に残る、思い出に残る試合ができてよかった」

   松井は落ち着いた口調でそう振り返った。腕も折れよ、と投げる高校生にとって最高のマウンドであり、最高の思い出だろう。

   中京の平中監督は「選手はだれもあきらめることなく戦った。勝敗よりも大切なものを得たと思う」。

   この試合は、世界の最高を集めたギネスブックに登録されることだろう。高校生の健闘は世界が認めてくれるはずだ。

軟式球は投げすぎても安全ということではない

   軟式野球はレベルが高くなるほど得点が入らない。「投高打低」の典型だ。だから延長となる試合が多い。高校ではこれまで25回があったし、社会人では45回があった。今回のようなケースは100年に1度あるかどうか分からない試合だが、延長戦はしょっちゅうある。

   実は、勝負がつきやすくするための処方箋として、10年ほど前にボールを変えた。簡単に言うと、弾みやすくした。つまり飛ぶし、安打になりやすくなった。この影響は少年野球にもろに表れ、高く弾むものだから内野安打が増え、大量得点が生まれやすくなった。

   それでもレベルが高いと中京―崇徳のようにゼロ行進が続く。この試合を見る限り、両校の打力が弱かったように思うが、延長は軟式の宿命といった方がいい。むりやり決着をつけさせようとすると、野球本来の面白さがなくなってしまうだろう。

   今後、問題提起されるのは、投手の投球数に絡む健康管理だ。硬式でも問題になっているテーマで、論議すべきだろう。

   硬式球と軟式球では体に負担がかかる度合いは異なる。大きく異なるといっていい。硬式球は硬く重い。硬さは骨折など危険が伴い、重さは肩やヒジに影響する。だからといって軟式球は投げすぎても安全ということではない。やはりそれなりの負担はかかる。1回の投球数に制限をつけることも必要になる。

   高野連は先手を打って「対策を検討する」と早々と見解を示し、騒ぎになることをけん制した。

   一方で「オレも投げてみたい」という選手の心理もある。この大会は軟式を行う選手にとって大きな目標になり、夢になったはずである。高校野球イコール硬式、というイメージだったのを大きく変えた試合だった。これまで上手な選手が硬式をやり、そうでない選手が軟式という図式を大きく変えることになるかもしれない。

   「青春をグラウンドで燃焼」という高校生の思いに対して、「危険だから」といって果たして頭から否定できるか。難しい話である。そこは大人の知恵で軟式高校野球なりの最善策を生み出すところだろう。

(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)

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