軟式球は投げすぎても安全ということではない
軟式野球はレベルが高くなるほど得点が入らない。「投高打低」の典型だ。だから延長となる試合が多い。高校ではこれまで25回があったし、社会人では45回があった。今回のようなケースは100年に1度あるかどうか分からない試合だが、延長戦はしょっちゅうある。
実は、勝負がつきやすくするための処方箋として、10年ほど前にボールを変えた。簡単に言うと、弾みやすくした。つまり飛ぶし、安打になりやすくなった。この影響は少年野球にもろに表れ、高く弾むものだから内野安打が増え、大量得点が生まれやすくなった。
それでもレベルが高いと中京―崇徳のようにゼロ行進が続く。この試合を見る限り、両校の打力が弱かったように思うが、延長は軟式の宿命といった方がいい。むりやり決着をつけさせようとすると、野球本来の面白さがなくなってしまうだろう。
今後、問題提起されるのは、投手の投球数に絡む健康管理だ。硬式でも問題になっているテーマで、論議すべきだろう。
硬式球と軟式球では体に負担がかかる度合いは異なる。大きく異なるといっていい。硬式球は硬く重い。硬さは骨折など危険が伴い、重さは肩やヒジに影響する。だからといって軟式球は投げすぎても安全ということではない。やはりそれなりの負担はかかる。1回の投球数に制限をつけることも必要になる。
高野連は先手を打って「対策を検討する」と早々と見解を示し、騒ぎになることをけん制した。
一方で「オレも投げてみたい」という選手の心理もある。この大会は軟式を行う選手にとって大きな目標になり、夢になったはずである。高校野球イコール硬式、というイメージだったのを大きく変えた試合だった。これまで上手な選手が硬式をやり、そうでない選手が軟式という図式を大きく変えることになるかもしれない。
「青春をグラウンドで燃焼」という高校生の思いに対して、「危険だから」といって果たして頭から否定できるか。難しい話である。そこは大人の知恵で軟式高校野球なりの最善策を生み出すところだろう。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)