牛丼チェーン最大手の「すき家」を運営するゼンショーホールディングス(HD)の2015年3月期の連結業績は、当期純損益が初めて赤字に陥る見通しになった。2014年8月6日発表した。
深夜の一人勤務体制(ワンオペ)解消など労働環境改善のため、費用がかさむのが要因だ。同時にすき家の牛丼値上げも明らかにした。従業員の労働環境を軽視してきたツケは、余りに大きいということか。
「24時間365日営業」の方針転換
発表によると、通期の当期純損益予想は13億7000万円の赤字(従来予想は41億8000万円の黒字)。赤字転落は、1982年の創業以来初めてだという。売上高は従来予想比2.4%少ない5250億円、営業利益は同49.4%少ない80億円にそれぞれ引き下げた。店舗休業による売り上げの減少が影響する。年間配当も8円と、従来予想から半減する。
ゼンショーが下方修正を迫られたのは、すき家の過酷な労働環境を要因とする人手不足と密接に関わっている。すき家は今春、人手不足で一時休業する店舗が相次いだ。景気回復基調を受け、外食産業全体が人手不足に陥ったことに加え、2月に鍋メニューを投入して店舗での作業が増え、多忙に耐えかねたアルバイトの不満が爆発。大学生のアルバイトが就職などを控えて退職する時期と重なり、店舗運営できないほど大量退職を招く事態となったとされる。
過酷労働の象徴とも言えるのが、接客、調理、清掃まで一人で行う深夜のワンオペ。すき家の労働実態を調査する第三者委員会(委員長・久保利英明弁護士)は7月31日に報告書をまとめ、「ワンオペの解消を早急に実現すべきである」と提言した。
これを受け、ゼンショーは9月末までにワンオペを解消すると表明。全国2000店弱のすき家のうち、半数近い約940店がワンオペだったが、アルバイト採用の強化や店舗間の人員の融通で解消を目指し、やりくりがつかない場合は深夜営業を中止するという。「24時間365日営業」が売りだったすき家にとっては大きな戦略転換といえる。
「全勝」「善なる商売」「禅の心で行う商売」
牛丼価格の引き上げも、戦略転換の一つ。採用コストの上昇や、牛肉価格の高騰を踏まえ、8月27日から値上げする。例えば税込み270円の並盛りは291円にする。牛丼大手3社は4月の増税前まで並盛り280円と横一線だったが、すき家はお値打ち感を出して集客するため、税込み価格を10円引き下げた。それから5か月弱で修正を迫られた格好だ。
ゼンショーは1982年創業。創業者である小川賢太郎氏の強烈なリーダーシップの下、店舗を急拡大してきた。2008年には吉野家を抜き牛丼業界ナンバーワンとなり、現在は「フード業世界一」を掲げる。それを支えたのが、ワンオペに代表される過酷労働ということで、インターネット上では「ブラック企業」の代表格として、早くから話題になっていた。
ゼンショーという社名は、全部勝つという「全勝」、「善なる商売」という「善商」、日本発祥の「禅の心で行う商売」という3つの意味を込め、創業時に小川氏が名付けたという。社名の由来に恥じない企業に再生できるかが問われている。