2015年度予算編成の出発点となる概算要求が2014年8月中に各省庁から提出される。これに向け7月に閣議了解された要求基準では、2015年10月の消費税率10%への引き上げが確定していないことを理由に、前年に続いて歳出の上限を示さない異例の内容になった。
いずれにせよ、巨額の財政赤字を考えると、社会保障費をはじめとする歳出抑制は待ったなし。その中でも焦点になるのが医療費の抑制だ。
25年度までに5兆円削減の方針
厚労省によると、2025年には団塊の世代が75歳以上になるが、75歳以上の医療費は現状で1人当たり年89万円と、65歳未満の5倍を上回る。こうした影響もあって、2011年度に38兆6000億円だった自己負担分を含む医療費は、2025年度には60兆円を超える。このため、政府は25年度までに5兆円削減の方針を掲げており、高齢者の医療費をいかに抑えるかがカギになる。
今の時期、予算編成をにらんで、具体的な制度変更など、各省庁検討している内容が打ち上げ花火のように紙面を飾る。まだ未確定の話も少なくないが、医療費に関しては、
①紹介状なしに大病院の外来を訪れる患者に対し、従来の定率の自己負担(1~3割)に加えて、定額の負担も求める。
②1食あたり260円を徴収している入院中の食費の自己負担を200円程度引き上げ、460円程度とする(①②とも早ければ2016年1月実施)。
③「70歳以上の高齢者の外来医療費の自己負担の月額上限額引き上げ検討」(2017年度までに法令改正)
などと報道されている。
各都道府県別に医療などに関する1年間の「支出目標」
こうした政策案の中で、今年の最大のポイントが、各都道府県別に医療などに関する1年間の「支出目標」(上限額)を設定させるというものだ。安倍内閣はすでに6月に閣議決定した経済財政運営の基本方針である「骨太の方針」に盛り込み、2015年度にも導入する構えだ。
なぜ都道府県別に目標を設けるのかというと、地域格差があるからだ。1人当たりの医療費が最も高い高知県は最も安い千葉県の1.5倍以上、75歳以上の高齢者医療に限ると、福岡県は岩手県の約1.6倍。格差を大きく左右するのが医療費の半分ほどを占める入院費だ。
75歳未満の国民健康保険も含めた1人当たりの入院費でみると、最も多い高知県は、最も少ない千葉県の約2.1倍にもなる。
入院費が高い地域はベッド数が過剰だとか、患者の入院日数が不必要に長いとみられるが、実際に目標数値をどのように決めるかとなると、簡単な話ではない。
目標設定に当たっては、医療機関が請求するレセプト(医療費の内訳を記した診療報酬明細書)や特定健診などのデータがベースになる。加えてどの種類の病気で病院にかかっているか、平均入院日数、また価格の安い後発医薬品をどの程度使っているか、さらに高齢者数などの人口構成などの指標も使う。
これらをもとに複数の市町村にまたがる地域単位で、救急やリハビリなど医療の役割別にどれほどのベッド数が必要かなど「妥当な医療費」を算出。医療費の低い地域を「標準集団」と位置づけ、都道府県が妥当な支出目標を決める――という。
医療機関の収入にも直結するだけに、医師会の抵抗も
ここでは、「レセプトなどの電子データの分析が最も重要」(医療関係者)。2014年度末までに全国の医療機関で原則、電子化が義務付けられ、すでに95%の医療機関が実施済みで、77億件のデータが蓄積されているという。政府は、この「ビッグデータ」を分析すれば、「地域格差を生む原因や無駄の実態が明らかにでき、改善点も明確になる」(財務省筋)とみている。
国は目標を超えた都道府県に対しペナルティーは設けず、緩やかな管理を目指すが、目標を達成できなかった場合は、原因の分析と具体的な改善策の策定を義務づけることで抑制を促したい考えだ。
議論は、社会保障制度改革推進本部(本部長・安倍晋三首相)の下に設置した専門調査会で進める。ただ、どのような治療をするかは医者の専権事項で、行政といえども個別に口を出せる領域ではない。医療機関の収入にも直結するだけに、医師会の抵抗も予想され、どのような仕組みに仕上がるか、予断を許さない。