インターネット検索サイトで名前を検索すると逮捕歴が表示され、名誉を傷つけられたとして、京都市の40代の男性がサイトを運営する検索大手「ヤフー」に表示の差し止めや慰謝料など約1100万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、京都地裁は2014年8月上旬、男性の請求を棄却した。
判決では「検索結果は男性の名前が載ったウェブサイトの存在や所在、記載内容の一部を自動的に示しているだけで、ヤフーが逮捕事実を示しているわけでない」と指摘し、人格権が違法に侵害されたとは認められないと判断した。
「自業自得」か「不公平」か
この訴訟は、男性が2012年12月に京都府迷惑行為防止条例違反(盗撮)容疑で逮捕され、2013年4月に執行猶予付き有罪判決が確定したが、その後もヤフーのサイトに男性の名前を打ち込んで検索すると逮捕記事を転載した複数のサイトなどが表示されるため、法廷で争うことにしたというもの。
男性は「軽微な犯罪で表示を続けるのは名誉毀損に当たる。就職もできない」と主張。ヤフー側は、検索サイトは社会インフラだとしたうえで、「検索結果の表示が違法だというなら新聞の縮刷版のある図書館も違法になる」などと反論した。判決では「逮捕事実への社会的関心は高く、逮捕から1年半程度しか経過しておらず、公共の利害に関する事実」と指摘し、「検索結果の表示には公益を図る目的もある」として違法ではないと結論づけた。
判決を受け、男性は8月14日に大阪高裁に控訴し、訴訟は第2ラウンドに進むことになった。
ネット上での関心も高く、「これが社会的制裁ってもの」「自業自得」との意見の一方、「名前の出ていない犯罪者もいて不公平な感じがする」「罪の重さじゃなく、名前が出たかで人生が変わるのはどうか」と男性に同情的な意見も出るなど、賛否両論が交錯しており、訴訟の行方が注目されるところだ。
欧州では削除を求める判断
同様の訴訟としては、単語入力すると関連語句を予測表示する検索大手「グーグル」の「サジェスト機能」で名誉を傷つけられたとして、男性が表示差し止めなどを求めた事例がある。2013年4月の東京地裁判決は訴えを認めて表示差し止めなどを命じたが、今年1月の東京高裁判決では一転して「男性の不利益は、表示を停止することで他の利用者が受ける不利益より大きくない」と一審判決を取り消し、請求を棄却した。
海外に目を転じると、欧州では表示情報の削除を認める判断が下されるなどしており、判断はまちまちなのが実情だ。
一方、国内外で表示をめぐる訴訟が起きるにつれ、国内メディアにも影響を与えている。事件や事故の報道で当初実名を報道しながら、後で匿名に変えるケースが散見されるようになっている。最近では先回りして自主規制することも珍しくなくなっているという。各社とも記事をネット配信しており、その情報伝播力が大きくなっているからこその事象だ。個別のケースで名誉棄損の程度など事情が異なることもあり、表示差し止めを求める訴訟は今後も起きるとみられている。