「東京五輪までに」――。首都高改修完了や自転車専用レーンの整備など、東京五輪までをめどにさまざまな方針を掲げている舛添要一東京都知事が、今度は飲食店での禁煙条例を打ち上げた。
具体的な内容は明らかにしていないが、飲食店からは困惑の声が広がっている。
「営業妨害だよ」と怒る店主も
舛添知事は2014年8月17日に出演したフジテレビ「報道2001」で、共演したパネラーから飲食店内での禁煙について話を振られ、「都議会の協力を得て、条例を通せばできる。やりたいと思う」と発言。時事通信(8月17日配信)によると、番組後に記者団に対して、すべての公共機関や飲食店を禁煙にしたいと語った。
発言を受け、喫煙者と非喫煙者の両陣営から「やりすぎだな」「ぜひ実現させてほしい」など、賛否の声が上がった。
実際に都内の飲食店に話を聞いてみると、やはり困惑の声が広がっている。神田の居酒屋の店主は「食事を楽しみにしているお客さんには喜ばれます」と必ずしも否定的ではない。一方で「入りやすい雰囲気のためにも禁煙にしていません。分煙が義務付けられてもスペースの問題で難しい」と一概には言えないようだ。
新宿で働くバーテンダーは「やはり多少は客足に影響するのでは」と不安げだ。ただ、海外からの客など、禁煙でないことが分かり、店の前で引き返した場合もあるようだ。四谷の喫茶店のマスターは「営業妨害だよ」と怒る。「うちなんかたばこを吸いに来てくれるお客さんもいる。吸える店に行くかどうかはお客さんが決めること」と、条例で決められることに反発する向きもある。
先行する神奈川、兵庫でも完全禁煙ではない
これまで自治体のいわゆる「禁煙条例」は、神奈川県で10年から「受動喫煙防止条例」、兵庫県で13年から「受動喫煙の防止等に関する条例」がそれぞれ施行されている。学校や医療関係施設での禁煙が定められ、兵庫県ではこれらの施設は建物内に喫煙室を設置することも禁止されている。
禁煙条例の名前が先行しているので、飲食店でもたばこが吸えないと思われがちだが、必ずしもそうではないのが実態だ。神奈川県では調理場を除く100平方メートルを超える大規模飲食店では禁煙または分煙にすること、それ以下の小規模飲食店での禁煙または分煙は努力義務にとどまる。兵庫県でも客席100平方メートル以上の大規模飲食店は分煙義務、小規模飲食店は喫煙ができることを表示することの義務づけにとどまる。
分煙や表示にとどまったのは、飲食店業界からの反発を受けたためだ。喫茶店やアルコールを提供するバーなどは客入りに影響する死活問題と訴え、これを受ける形で両県とも修正を受け入れた。また、神奈川県は3年ごとに条例を見直す規定によって開かれた13年の会合で、小規模店への分煙義務の拡大を議論したが、分煙のための資金やスペースがないとの訴えを受け入れた。
両県とも、愛煙家の憩いの場である喫茶店やバーは各店の判断が尊重されているのが現状だ。舛添知事の考える条例案はまだ明らかにされていないが、もし全面禁煙を目指すものになれば業界から反発を受けそうだ。