震災の被災地に地蔵を贈る活動を続けている山形市のNPO法人「被災地に届けたい『お地蔵さん』プロジェクト」が大槌町の旧役場庁舎前に地蔵を建立し、8月3日、除幕式がありました。
地蔵は3体。高さ1.5メートルある地蔵を真中に、2体の子地蔵が笑顔で見上げています。当時の町長を含めて全職員の約3分の1にあたる40人の職員が犠牲になった旧町役場庁舎前の献花台のわきに設置されました。
除幕式には、プロジェクトのメンバーのほかに、募金で建立費を集めた秋田県大仙市の関係者、ゲストの俳優柳葉敏郎さんや女優吉沢京子さんらが出席しました。大槌町のプロジェクト実行委員会の池ノ谷伸吾さんが「遺族の方々の心が休まる場所になればいい。お地蔵さんを大切にしていきたい」とあいさつしました。テレビの応援団ドラマに出演している柳葉さんは、除幕式で演舞し、大槌町にエールを送りました。
除幕式の後、近くの町役場多目的会議室で開かれた懇親会で、吉沢京子さんが「平成地蔵讃歌」を朗読しました。「平成地蔵讃歌」は宗教学者で哲学者の山折哲雄さんが作詞し、プロジェクトに寄せました。以下がその抜粋です。
「……この世からあの世への山の辺に あの世からこの世への海の辺に お地蔵さんが ニコニコ立っている 手招きしながら 立っている/お地蔵さんは 物をいわない お地蔵さんは 黙って立っている/もっと そばに近寄ってみよう その口元に耳を近づけてみよう お地蔵さんの声がきこえてくる お地蔵さんの言葉がきこえてくる/いのちの対話がはじまるんだよ 別れ別れになってしまった親と子 顔を見合わせることができなくなった夫と妻 手を握ることができなくなってしまった お爺さん お婆さん そのとき お地蔵さんの 口かの奥からこぼれてくる声 低い 低い声 静かな言葉 優しい言葉……」
大仙市の市民有志が募金活動をしたのは、震災をきっかけに始まった、同じ秋田県内の五城目町と大槌町との交流を知ったからでした。五城目町のお年寄り一行は、旅行先の大槌町で震災に遭い、ホテル従業員の機敏な誘導と地元の人たちの支援で無事に故郷に戻ることができました。以来、両町は、岩手県花巻市にアンテナショップをつくり、友情の輪を広げてきました。旧役場庁舎の献花台も五城目町の町民有志により寄贈されました。
震災で1284人が犠牲になった大槌町では、旧役場庁舎が慰霊の場になり、町内外から多くの人が訪れています。多くの人たちの支援で建立されたお地蔵さんは、町の復興の状況を見守りながら、遺族や関係者に、生きる力や勇気を与えてくれることでしょう。
(大槌町総合政策課・但木汎)
連載【岩手・大槌町から】
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