近年、低迷が続いていた発泡酒市場が、大きく変わるかもしれない。ビール大手各社が「糖質ゼロ」「プリン体ゼロ」をうたった製品を相次いで投入するためだ。
健康志向の高まりを受け、糖質やプリン体に配慮した「機能系ビール類」への支持は高まっている。発泡酒反転のきっかけになるのか、注目される。
騒動で知名度アップ
この分野で先行するのはサッポロビールの「極ZERO」。酒税の税率が低い第3のビールとして昨年6月に発売し、7か月で358万ケース(1ケースは大瓶20本換算)を販売する大ヒットとなった。痛風の原因になる尿酸値を上げる「プリン体」を抑えたことが健康志向の消費者に受け入れられた。だが国税庁から「第3のビールではない可能性がある」と指摘され、一時発売を中止。7月15日に発泡酒として再発売した経緯がある。
価格が上がった分、販売も大きく落ち込むことが懸念されていたが、再発売以降は想定を上回る好調な売れ行きだという。関東地方などで猛暑が続いていることに加え、一連の騒動により知名度がアップしたことも販売を押し上げているようだ。
他の大手3社も、第3のビール時代の「極ZERO」の好調を受け、「プリン体ゼロ」の開発に着手。9月2日、一斉に新製品を発売する。
発泡酒市場で16年連続売り上げ首位のキリンビールは「淡麗プラチナダブル」を投入する。「プリン体99%カット」をうたって2009年に発売した「淡麗ダブル」の特許技術を進化させ、「プリン体0.00」を実現したという。
アサヒビールの「スーパーゼロ」は、新たな原料として、米をエキス化し、乳酸発酵させた後にろ過した「米乳酸発酵液」を採用。香り、味に複雑さやふくらみを出した。
サントリー酒類は天然水100%仕込みにこだわった「おいしいZERO」を出す。同社は縮小する発泡酒市場から一時撤退していたが、新商品で再参入を果たす。
違いは「アルコール度数」
4社とも「プリン体ゼロ」「糖質ゼロ」を売りにしており、違いが分かりにくい。缶のデザインはいずれも青色が基調。店頭想定価格はいずれも165円前後だ。分かりやすい違いは、アルコール度数くらい。サッポロが4%なのに対し、サントリーは5%、キリンとアサヒは5.5%とばらついた。
発泡酒出荷量のピークは2002年の2億348万ケース。サッポロが第3のビール「ドラフトワン」を発売した前年だ。その後は各社とも税率が低い第3のビールに注力。発泡酒は加速度的に販売を落とし、2013年はピーク時の3割弱に落ち込んだ。
350ミリリットル当たりのビール類の酒税額はビール77円に対し、発泡酒47円、第3のビール28円。味重視派はビール、価格重視派は第3のビールに流れ、中途半端な発泡酒の存在感は低下する一方だった。
各社とも第3のビールで「プリン体ゼロ」を実現しようと開発を進めてきたとみられるが、「極ZERO」のように国税庁からケチをつけられる可能性が出てきた。このため製法上、第3のビールよりも容易に「ゼロ」を実現できる発泡酒での発売ラッシュになったというわけだ。業界関係者は、4社入り乱れた戦いが、発泡酒市場の活性化につながるのではと期待している。