産経新聞のウェブサイトに掲載された記事が韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の名誉を傷つけたとして、ソウル中央地検が筆者の加藤達也ソウル支局長(48)に出頭を求めている問題で、さすがに韓国内でも異論が出始めた。
その多くが、産経新聞の記事は朝鮮日報など韓国メディアの記事をもとにして書かれたにもかかわらず、産経新聞だけ問題視されているという点に対する疑問だ。ただ、韓国メディアの中では両紙の記事は異質で、産経が非難されるのは当然だとみる向きもある。
8月18日に検察に出頭し、事情聴取される見通し
問題視されているのは、2014年8月3日に「追跡~ソウル発 朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?」と題して掲載された記事。セウォル号沈没事故が起こった4月16日に朴大統領が7時間ほど所在不明になり、その間、ある男性と密かに会っていたとするうわさを、朝鮮日報など韓国メディアを引用しながら報じる内容だ。市民団体が「記事は名誉棄損」などと告発し検察が捜査することになった。加藤支局長は8月18日にも出頭し、事情を聴かれる見通しだ。
産経新聞は小林毅・東京編集局長名でコメントを発表し、出頭要請の合理性に疑問を呈した。
「問題とされた記事は韓国国会でのやりとりや朝鮮日報コラムの紹介が中心であり、この記事を理由に名誉毀損容疑で出頭を求められるというのは理解に苦しむ」
ハンギョレ新聞「大統領府は、このような疑惑に対して一言釈明もしていない」
このコメントに理解を示す韓国メディアも少なくない。例えばニュースサイト「プレシアン」はコメントを引用し、
「(産経新聞と)同じ内容を報道した朝鮮日報との公平性の問題を遠回しに指摘したわけだ」
と指摘した。
左派のハンギョレ新聞も8月11日の記事で、産経新聞の記事が朝鮮日報の記事をもとに書かれていることを指摘し、
「大統領府は、このような疑惑に対して一言釈明もしていない。朴大統領は沈黙し、大統領府は無視した」
「国家惨事のときにいなくなった大統領の動静が『国家機密』なのか」
と主張した。遅くとも朝鮮日報の記事が出た時点で大統領府が適切な説明をしていれば、産経新聞の記事が出ることはなかったはずだ、という論法だ。
だが、ニュースサイト「ニューデイリー」は、これらに真っ向から反対の立場だ。同サイトの見方では、朝鮮日報の記事は、
「大統領府がセウォル号事故当日の朴大統領のスケジュールをきちんと説明できず、世間でさまざまな疑惑が提起されているだけに、大統領府がこれに対して明確な立場を明らかにすべき、という内容」
だったのに対して、産経新聞は、
「『大統領の男関係』というイエロージャーナリズム的視点でのアプローチで、国家元首の私生活を暴いた」
のだという。
ただ、記事の中身が大統領の公的な仕事に関連するだけに、説得力はない。
外信記者クラブは「高いレベルの関心」
確かに朝鮮日報の記事では、
「世間では『大統領はあの日、ある場所で誰かと密会していた』といううわさが流れた」
と書かれている程度で、親しい男性と密会しているとは読み取りにくい。これに対して、産経新聞の記事は、
「コラムでも、ウワサが朴大統領をめぐる男女関係に関することだと、はっきりと書かれてはいない」
「おそらく、『大統領とオトコ』の話は、韓国社会のすみの方で、あちらこちらで持ちきりとなっていただろう」
と踏み込んだ。この点が韓国側の逆鱗に触れた可能性もある。
なお、韓国に取材拠点を置く外国報道機関でつくる「ソウル外信記者クラブ」は8月14日に緊急の理事会を開き、産経新聞が同会の長年にわたる会員であることを改めて確認した上で、
「会員の自由な報道環境を守ることに注力してきたソウル外信記者クラブとして、この問題には高いレベルの関心を持つに値する」
「捜査に関する今後の進展には高い関心を持つ」
ことで合意した。