震災で壊滅的な打撃を受けた大槌町で、地域の住民が震災を検証し、独自の防災計画を作る動きが活発になっています。震災から教訓を学び取って次世代に引き継ぎ、防災に役立てようとするねらいがあります。
独自の防災計画を作ったのは、吉里吉里地区と安渡地区。吉里吉里地区は船越湾、安渡地区は大槌湾に面した、いずれも漁業の町です。震災で、吉里吉里地区では97人、安渡地区では218人が、それぞれ犠牲になりました。
吉里吉里地区では町内会、消防団、小中学校PTAの有志らによる自主防災計画策定検討会が話し合いを重ねて計画をまとめあげ、7月24日、町に提出しました。震災の教訓から、「避難すること」「自分の命を守ること」を大原則に、「避難をする前後」「避難する場所」「避難の方法・手段」など7項目を中原則とし、7項目ごとにルールを決めました。
ルールは合わせて22項目。「普段から避難に必要なものを用意しておく」「普段から避難場所、避難所および避難路を確認しておく」「基本は一人で避難する(てんでんこ)」「徒歩による避難を基本とする」「徒歩で避難することが困難な場合、車いす、リヤカーなどで避難する備えをしておく」「やむを得ない時は車を利用して避難する」「避難しながら周辺の人々にも避難を呼びかける」などを盛り込みました。
検討会の橋本俊明議長は「二度と惨事を繰り返してはならない。この防災計画を地域住民に周知し、意識を絶やさず、継続してつないでいきたい」と話しています。計画を受け取った碇川豊町長は「後世に記録として残る意義ある計画。町の防災計画と連動させたい」と話しました。
一方、安渡地区では、町内会の全世帯を対象にアンケートして防災計画をまとめ、昨年4月19日に町に提出しました。
アンケートで震災時の避難開始時間を調べたところ、「5分以内」34%、「10分以内」56%、「20分以内」84%で、20分以内が8割を超し、「21分以上」が9%ありました。避難が遅れた人たちは「津波が来るとは思わなかった」「車の渋滞」「要介護者の存在」「低地への戻り」などを理由にあげました。
避難行動と避難所運営を合わせて、まとめたルールは35項目。以下が抜粋です。「住民は想定にとらわれずに自主的な判断で、安全な避難場所、避難路を目指せるよう、家庭の避難計画、避難訓練を考える」「町内会は、要介護者がいたり、夜間だったりという厳しい条件での避難行動手順を考える」「町内会は、車での避難を一定の条件下で認め、そのルールを協議して決める。認める条件は、例えば、歩いて避難することが難しい要援護者」……。
計画作りに携わった早稲田大文学学術院教授の浦野正樹教授は「震災の体験を検証し、ぎりぎりまで詰めた内容」と説明しています。
「津波常襲地帯」とされる三陸沿岸。震災時、「高台をめざして出来るだけ早く逃げる」という基本動作がおろそかになったことで犠牲者を増やしました。年月を経て、世代が代わると、心の中に忍び込んでくる油断。その芽をどう摘んでいくか。地域の防災計画はその一助になることでしょう。
(大槌町総合政策課・但木汎)
連載【岩手・大槌町から】
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