心の交流で日中関係を根底から変えるのがベスト
ボトルネックはビザ以外に、大きく2つあります。そのうちのひとつが航空インフラ整備です。日本は入国してから都心までの移動に時間がかかります。成田空港と東京駅を結ぶ成田エクスプレスは本数が少ないし1時間もかかる。羽田空港からは、鉄道だと品川で乗り換えないといけません。これが各空港から東京駅周辺まで10~20分で行ける、高速鉄道で結ばれると、「北京-上海」といった中国の国内移動と同じ感覚で日本に来られるようになります。 もう一つが法人税です。空港アクセスを改善した上で法人税が25%にまで下がると、もうひとつ別の効果が期待できます。PM2.5の心配がない東京に住んで中国ビジネスをやりたいと考える人が日本企業や欧米企業で増えています。法人税が下がれば、これが現実的になります。欧米企業では中国赴任を拒否する人も出ているので「東京のいい環境で柔軟に頭を使いながら中国ビジネスをやる」。全世界の企業がそう考えると東京がものすごく注目され、国際会議も増え、お客さんも増え、観光客も増える。ビルの投資にもつながり、地価の上昇にもなる。バブルではなくて実需なので崩れない。もちろん東京はアジアの中核都市になる。そういう長期的なことを考えると、この3つを組み合わせたら、アベノミクスの3本目の矢は完了ですね。
―― 実際に日本に観光に来てもらうことは、潜在的な日本の支持者を増やすこともであります。
瀬口: 日本と中国の関係を変える、こんなにパワフルな道具はありません。どんどん来てもらう。東京五輪は最高のシチュエーションです。バドミントン、卓球、高飛び込みでは、中国が間違いなく好成績を収めるでしょう。決勝の観客は大半が中国人。彼らがみんな日本ファンになるかも知れません。それを目指して日本は最高の準備をして、心の交流で日中関係を根底から変えるのがベストです。一気には変わりません。時間をかける必要があります。(連載終わり)
瀬口清之さんプロフィール
せぐち・きよゆき キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)研究主幹。1982年東京大学経済学部卒業、日本銀行入行。04年にInternational Visiting Fellowとして米ランド研究所に派遣。北京事務所長、国際局企画役を経て09年から現職。