日本では無名の海外企業が、大手商社の一角、伊藤忠商事の筆頭株主に躍り出る。タイ最大級の財閥、チャロン・ポカパン(CP)グループ。伊藤忠もCP関連企業に出資し、アジア市場を開拓。「非資源」分野で圧倒的なナンバー1を目指す。
伊藤忠が7月24日、CPグループと資本・業務提携すると発表した。大手商社が海外企業と株式を持ち合うのは異例だ。
従業員約30万人を抱えるアジア有数の複合企業
CPグループは傘下に約300社の企業があり、売上高約4兆1000億円、従業員数約30万人を抱えるアジア有数の複合企業。中国華僑の兄弟が1921年、バンコクで野菜種子の取り扱いを始めた。その後、飼料製造、畜産物・生産物生産、食品加工、小売りにも参入。1979年には逸早く中国にも進出した。日本企業にはない華僑ネットワークが強みで、現在は通信から金融・保険まで、幅広い事業を手がけている。中核の飼料事業は世界最大級で、タイではコンビニエンスストア、セブン‐イレブンを約7600店展開する。
伊藤忠は、アジア地域に強固な足場を築き、まずは飼料、畜産分野などでの取引拡大を見込む。CPグループは、伊藤忠のグローバルな調達網を活用する。
相互出資という形で「裏切られる不安」を解消
提携スキームは少し複雑だ。伊藤忠とCPグループが戦略的な業務提携契約を締結、幅広い分野での協業を目指す。さらに伊藤忠が、香港証券取引所に上場し、中国・ベトナムで飼料・畜産などを手がける中核会社、CPポカパンの株式の25%を約870億円で取得。さらにCPグループは、伊藤忠が実施する1024億円の第三者割当増資を引き受ける。CPの投資子会社が4%、CPと日本政策投資銀行が折半出資する投資組合が0.9%を出資し、伊藤忠の事実上の筆頭株主となる。増資による株の希薄化を抑えるため、最大1100億円の自社株買いも実施する。
大手商社は、世界中で成長が見込める企業に出資して経営に関与し、収益を上げてきた。だが一方的な部分出資など、緩やかな提携関係では成長にも限界がある。相手企業にとっては、商社側の都合で出資を引き上げられてしまう可能性も念頭に置かないといけない。そこで相互出資という、大きく踏み込んだ関係を構築し、「裏切られる不安」を解消したというのが今回の提携のポイントだ。
「非資源分野」が得意な両社が組むメリット
伊藤忠が掲げるのは「非資源ナンバー1」商社。国際市況の変動を受けやすい資源ビジネスより、食品、繊維などの非資源分野を強化することで、安定的な収益確保を目指している。実際、米食品大手ドールの一部事業やジーンズのエドウィンを買収するなど、積極的な投資を進めており、資源に強い三菱商事や三井物産との違いを打ち出している。
CPも非資源分野で事業を拡大しており、伊藤忠が組むにはうってつけの相手。提携効果で「年100億円以上のリターンを見込める」としている。
将来は、金融・保険、通信分野などでも協業を模索し、ビジネス拡大を見込む。だが業務提携したばかりで、具体的な戦略立案はこれから。相互出資という異例の提携がどのような効果を生むのか、注目される。