特許法は改正済みだが・・
こうした方針に対して労働団体や専門家からは反対の声や慎重論が出ている。まず、個々の社員への見返りが少なくなって発明への意欲がわかなくなるというもので、政府部内にも「日本経済全体の技術革新の勢いが失われないか」と懸念する声が聞かれ、「発明者の待遇が悪くなると、技術流出が進みかねない」(労働法学者)との指摘もある。
実は、「中村訴訟」を受け、2004年に特許法が改正され、会社と従業員は発明の対価について自主的に取り決め、双方が同意した内容を明文化することができる(契約や規則が合理的だと認められれば裁判所の判断より優先される)ようになっている。現場では、「改正法に合わせて新しいルールを作り、その後の実務の積み重ねで、ようやく運用が安定してきている」(弁理士)と、再度のルール変更を疑問視する声がある。
実際、発明した社員に対し、特許の登録時に数万円を支払い、その後も特許で得た利益の数%から十数%を毎年支払うといった制度を整備し拡充しているケースも珍しくない。例えば武田薬品工業は、1998年に全世界での売上高に応じて、報奨金を支払う「実績補償制度」を導入済みで、2004年には3000万円の上限金額も撤廃。三菱ケミカルは、特許を使った製品の営業利益などをもとに報奨金の支払いを決める特別な計算式を作っている。こうしたケースが、今回の改正方針でも社員に対する「十分な対価」と認められることになりそうだ。
ただし、こうした対応はもっぱら大企業に限っての話。このため、経済界からも「企業に課す条件が厳しすぎると中小企業は対応できない」(中小企業団体)との不満が出ており、今後の検討は簡単にはいきそうもない。