西アフリカのギニアやシエラレオネ、リベリアなどで猛威をふるっているエボラ出血熱の治療に、日本の富士フイルムホールディングスのインフルエンザ治療薬「ファビピラビル」が有望視されている。
エボラ出血熱は、エボラウイルスによる感染症。発熱や頭痛、下痢などを発症したあと、全身からの出血や多臓器不全に至る。致死率は90%超と高く、ワクチンや治療法も見つかっていない。世界保健機関(WHO)によると、死者は2014年8月4日時点で932人にのぼる。
エボラ熱治療薬としての可能性、「わかっていた」
富士フイルムホールディングス(HD)によると、「ファビピラビル」は同社の米国での提携先であるメディベクター社を通じて、エボラ出血熱の治療に使えるよう申請する意向で、現在、米食品医薬品局(FDA)と協議している。
富士フイルムHDは、「これから臨床試験(治験)を行う、そのためにFDAと協議しているところです。治験で安全性や有効性などを確認していくことになります」と話している。承認されれば、エボラ出血熱の感染者治療で米当局が承認する、初めての医薬品のひとつとなる見通しだ。
ファビピラビルは、日本では2014年3月24日にインフルエンザ治療薬として承認されており、米国でも現在、インフルエンザ治療薬として治験の最終段階にある。
富士フイルムHDはファビピラビルの、エボラ出血熱の治療薬としての可能性について、「インフルエンザとエボラ出血熱のウイルスは、似たような型(RNAウイルス)なので、(効く)可能性があることはわかっていました」と話す。
同じインフルエンザ治療薬でも「タミフル」にその効果が見込めないのは、薬の作用(効き方)が異なるため。
インフルエンザウイルスは、感染した細胞内で遺伝子を複製し、増殖・放出することで他の細胞に感染を拡大する。「タミフル」(ノイラミニダーゼ阻害剤)の場合は、遺伝子が複製された後の「放出」を阻害して感染の拡大を防ぐ。しかし、ファビピラビルは「RNAポリメラーゼ阻害剤」といわれる、ウイルスの細胞内での遺伝子の「複製そのもの」を阻害することで増殖を防ぐ、新しいメカニズムを有する薬なのだ。
すでに鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)やA(H7N9)などに対する抗ウイルス作用でも、実験動物レベルでの効果が確認されている。
「新薬」効果、株価も押し上げ
米ブルームバーグは2014年8月7日付で、米国防総省のエイミー・デリックフロスト報道官の証言として、今後、エボラ出血熱に感染したサルに「ファビピラビル」を投与して効果を確認する作業を進め、9月中旬には暫定的な試験結果を得られる見通しである、と報じた。
西アフリカでの死者が1000人に迫るなか、米国では未承認薬による治療がはじまった。リベリアでエボラ出血熱に感染した患者の治療にあたっていた米国人の男性医師と支援団体メンバーの女性の2人に、「ZMapp」と呼ばれる未承認薬を現地で投与した。
ZMappは米カリフォルニア州の創薬ベンチャー企業が開発した新薬で、サルの動物実験で効果はあったが、ヒトに対する効果や安全性は確認されていない。ただ、薬の効果なのかどうかは不明だが、投与された2人は快方に向かっているとされる。
WHOも、医学倫理の専門家らを集めて、開発段階にある治験薬の臨床使用に向けた検討をはじめる。
富士フイルムHDはファビピラビルの米国の承認について、「米当局が判断することなので…」と言葉を濁すが、エボラ出血熱が終息する気配がないなかで、「新薬」への期待は否応なく高まる。
「新薬」は富士フイルムHDの株価を押し上げ、8月7日には終値で前日比159円高の3089.5円を付けた。翌8日は一時、前日比140円高の3229.5円まで上昇。年初来高値を更新するなど、こちらも目が離せなくなっている。