マーくんと松井裕、「運」で分かれた勝負の世界
それにしても田中は強運の持ち主だと思う。ジラルディ監督も「厳しい状況」とエースの今季を不可能とみていたのに、いわば無傷で戦列に復帰する予定が組める状態になった。その運の強さに驚くばかりである。
「マーくん、神の子、不思議な子」
こう田中を評した楽天時代の野村監督の言葉を思い出す。ルーキー時代から負け投手になるかと思うと、打線が奮起して同点、あるいは勝ち越ししてしまう。何度もそのようなことが重なり、監督の口からついそんな感想が漏れた。
たしかに、24勝無敗の昨シーズンもそうだった。バックの援護で何度か敗戦を免れ、一転して勝ち投手になったことがある。
対照的に「運がないな」と思わざるをえないのが、ポスト田中と期待されたドラフト1位のルーキー松井裕だ。この6日のロッテ戦で先発、勝利投手の権利を持って交代したのだが、リリーフ陣が、5点差をつけていた9回裏になんと6点を取られて大逆転負け。先発初勝利が消えてしまった。その以前にも同じような状況にありながら勝てなかった。
田中の運の強さの反動を松井裕が背負っている感じなのだ。その反映か、田中のいた昨年は日本一なのに対し、今季は最下位を独走中。勝負の世界なので、選手たちはそういう運、不運に敏感である。
田中はチーム最多の12勝を残して戦列を離れた。ヤンキースは今のままではポストシーズン進出は厳しい。田中は復帰した場合、3試合ぐらいしか登板できないだろう。ただその試合に勝って15勝に到達すればア・リーグ新人王の可能性が出てくる。
161億円男の、「復帰後」に期待が高まる。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)