牛丼チェーン店の「すき家」を展開するゼンショーホールディングスが、牛丼(並盛り)を現行の税込270円から291円に、21円値上げする。
「ブラック企業」よばわりされるきっかけとなった、深夜営業を1人でこなす「ワンオペレーション」を2人勤務に改めることや、食材である牛肉の値上がり分などを、価格に転嫁する。牛丼は「安くない」時代がやってきたようだ。
「ワンオペ」解消で深夜営業できず、15年3月期は最終赤字に転落
すき家が牛丼(並盛り)を291円にするのは2014年8月27日から。デフレ時代に安売り競争を繰り広げた、「すき家」「吉野家」「松屋」の牛丼チェーン3社は、4月の消費税率の引き上げに伴う価格改定で、それまでの280円(税込)だった横並びが崩れた。
しかし、このときも吉野家が「300円」に、松屋が「290円」に値上げしたが、すき家は「270円」に値下げ。「安売り」にこだわり、集客力を高める作戦に出ていた。
そんなすき家が値上げに踏み切らざるを得なかった理由の一つが、人件費の上昇だ。外食業や流通業などのアルバイト・パートの人手不足は深刻で、すき家の深夜アルバイトの時給は現在も1400円で高止まりしている。
加えて、同社は深夜帯(午前0~5時)に1人で店舗を運営する、いわゆる「ワンオペ」を解消する方針を打ち出した。8月6日、すき家の親会社のゼンショーHDが4~6月期決算を発表。その場で、「9月末までに2人勤務にできない店舗は、深夜営業をやめる」と明かした。
深夜休業による売上高の目減りで、業績修正後の2015年3月期の売上高の見通しは5250億円(前期比12%増)と、従来予想から128億円減った。
深夜2人勤務に移行するための採用コスト、人件費の負担増で、営業利益は1%減の80億円と従来予想の半分になる見通しで、最終損益は従来の41億円の黒字予想から一転、1982年の創業以来初めての赤字に転落する。
現在、すき家は全国に約2000店舗ある。そのうち、「ワンオペ」営業が続いている店舗はまだ940か店。小川賢太郎会長兼社長は「休業は(深夜に1人勤務となっている店の)半分の460~470か店となりそう」とみているが、「赤字は残念だが、ワンオペの可及的速やかな廃止を進めたい。今回は(2人勤務を)断固として実施する」と強調した。
1人勤務を強いられている店舗は深夜だけ休業として、近隣店舗からアルバイトを異動させたり、外国人留学生の採用を強化したりして2人勤務を実現させるという。
すき家はこれまで、少人数の店舗運営でコストを切り詰めてきたが、人手不足に伴う過剰労働が社会問題化したこともあり、店舗運営を「転換」する。
牛肉高騰、豪州産で36%、米国産で28%も上昇
人件費とともに頭の痛いのが食材である牛肉などの高騰だ。ゼンショーは、「主要食材である牛肉の価格が、中国などの需要拡大によって世界的に高騰し続けています。2012年3月期と比べて、14年4~6月の牛丼用部位の平均価格は豪州産で36%、米国産で28%も上昇しました(価格は仕入れベース)」と、説明している。
消費者にとって「安い」ことはうれしいが、「すき家」といえども、こうした人件費や材料費のコストアップを、価格に転嫁せざるを得なくなった。
とはいえ、すき家の牛丼(並盛)の「291円」は、吉野家、松屋の3社の中では最安値だ。
牛丼といえば、「旨い」「早い」「安い」がコンセプトだったが、どうやら「安い」時代が終わりつつあるのかもしれない。
ライバルの一角、松屋フーズの緑川源治社長は2014年7月17日の「プレミアム牛めし」の発表会で「380円は決して高くない」と断言した。
同社は牛肉へのこだわり、チルド牛肉を使用した「別次元の旨さ」の「プレミアム牛めし」を、7月22日に発売。それ伴い、従来の「牛めし」(290円)の販売を終了する。つまり、事実上の値上げを意味している。吉野家(300円)を、80円上回る価格での販売だ。
吉野家は、最近はファミリー層の獲得に注力。「牛ねぎ玉丼」「牛カルビ丼」などを投入したり、セット販売や定食を充実したりしながら客単価を上げている。
ちなみに、吉野家も松屋も、深夜アルバイトの時給は1375円程度(新宿駅周辺の店舗)で、すき家とあまり変わらなくなっている。