富士通は半導体の主力拠点、三重工場(三重県桑名市)を売却し、半導体生産から撤退する。かつて世界を席巻した「日の丸半導体」の敗戦を象徴するような話だが、一方で東芝は同じ三重県内でやはり半導体の主力拠点である四日市工場(四日市市)に最大5000億円を投じ、規模を拡大する。
東芝は「フラッシュメモリ」と呼ばれる世界的に競争力のある半導体記憶装置を持つためで、戦略の明暗がくっきり浮かぶ。
富士通三重工場の売却先は、台湾の「UMC」
富士通の場合、ようやく半導体事業の再編にメドをつけた格好だ。スマートフォンなども含む家電製品の電子制御に使う半導体を生産する三重工場の売却先は、台湾の半導体受託生産世界3位の「UMC」。ちなみに経営破綻した国策半導体会社「エルピーダメモリ」の元社長である坂本幸雄氏が、UMCで顧問的な役職についている。富士通とUMCは、共同出資の半導体生産受託会社を設立し、三重工場をそのもとに置く。富士通が段階的に出資比率を下げて連結対象から外す算段だ。工場の約800人の従業員の雇用は維持する。
富士通はもともと三重工場を半導体受託生産最大手の台湾TSMCに売却する方針で、2013年2月に発表した事業再編計画にもその方針を盛り込んでいた。しかし、TSMCとの売却交渉は難航して時間ばかりが経過。三重工場に画像処理用半導体の生産を委託しているソニーが、ソニーのライバル社の生産委託先であるTSMCへの売却に難色を示すなど、複雑な要素も絡んだようだ。
「マイコン」生産する会津若松工場も売却へ
富士通はまた、自動車の電子システムなどを制御する「マイコン」と呼ばれる半導体を生産する会津若松工場(福島県会津若松市)についても、米オン・セミコンダクターに売却することでほぼ合意。富士通はこれまでも工場売却や他社との事業統合を進めており、経営の足を引っ張ってきた半導体の生産から撤退し、設計・開発についても連結対象から順次外す。今後は官庁や金融機関などをがっちり得意先に抱えて必ず儲かるITシステム事業をより進化させ、膨大な情報を活用する「ビッグデータ」などを飯のタネにすることを目指す。
一方の東芝は、四日市工場に新棟を建設する。半導体事業で提携するメモリーカード世界最大手の米サンディスクと共同で取り組む。半導体生産は競争力維持に巨額投資が必要なため、東芝はサンディスクと提携している。
需要が拡大するスマートフォンに採用されることを見込む
四日市工場は、半導体記憶装置の一種であるフラッシュメモリの基幹工場。新たな投資によって記憶容量を現在の約16倍に高める。新興国を含めて需要が拡大するスマートフォンに採用されることを見込む。スマホに搭載されれば、高画質の動画映像を手軽に楽しめるようになる。
フラッシュメモリでは、韓国サムスン電子と東芝がそれぞれ世界シェア3割超で「2強」と言われている。ただ、2~3ポイント程度、東芝がサムスンの後位置にいる模様。東芝が世界に先駆けて1テラバイト(テラは1兆=10の12乗)という大容量の記憶装置を開発、生産することで、一気にサムスンを抜き去る可能性がある。大容量化に向けた開発ではサムスンが一歩進んでいるとの見方もあるが、東芝が世界一を視野に入れているのは確かで、半導体の中でも得意分野を伸ばし、巨額投資を持続できる提携先を確保したことで、富士通と明暗を分けた。