中国を率いる習近平指導部は、対国外では日本やベトナム、フィリピンと領土問題を巡り強硬姿勢を貫く。一方、国内でも「反体制」と位置付ける勢力には容赦ない。知識層の活動家や少数民族には、激しい弾圧を続けている。
中国国内に2200万人が暮らすウイグル人も、近年締め付けが強くなっている。日本ウイグル協会会長を務めるイリハム・マハムテイさんは「中国で暮らすウイグル人は、いまや自分の命を守るのがやっと」と嘆く。現状について詳しく聞いた。
令状はおろか説明もなしに身柄を拘束
――世界ウイグル会議のラビア・カーディル主席が2013年に来日した際、習近平体制が成立して以降ウイグル人弾圧が激化したと発言しました。どのような点でそれを実感していますか。
イリハム 中国共産党体制下でウイグル人の生活が良好だった時期はありませんが、近年は特に悪化しています。当局はウイグル人居住地域に強力な治安部隊を派遣し、街の至る所を我が物顔でパトロールして人々の暮らしに目を光らせているのです。道を歩いていると、ウイグル人であるというだけで問答無用で身分証明書の提示を強制し、女性に対しては「身体検査」と称してわざと体を触るような嫌がらせをします。少しでも反発すれば不当に逮捕される恐れがあると分かっているので、抵抗できません。
何か事件が起きると、突然警察が自宅にやって来て令状はおろか説明もなしに身柄を拘束されることすらあり、暴力による支配が横行しています。
――弾圧がエスカレートしたきっかけは何だったのですか。
イリハム 2009年6月25日、広東省の工場でウイグル人労働者が漢人(漢民族)に襲撃されて多数の死傷者が出ました。7月5日に(新疆ウイグル自治区の)ウルムチで、正当な処分を求めるウイグル人のデモが行われました。平和なデモだったにもかかわらず、警察は暴力で排除しようと無差別に発砲したのです。これにより死者・行方不明者は3000人を超えると見ていますが、当局発表はずっと少ない数字です。日本の一部メディアは今も「ウイグル人による暴動」と報じていますが、正しくありません。
この年を境に、締め付けが厳しくなりました。街中でおおっぴらに話すことができなくなり、数人集まれば「テロの相談か」と警察に疑われる始末です。
私はもう8年も故郷に帰っていません。電話は家族だけで、友人には連絡していません。もし電話すると、「音信がなかった相手から突然連絡があったのは怪しい」と友人が疑われ、迷惑をかけるからです。電話はすべて当局側が盗聴していますから、家族とも込み入った話はできないのです。
車は焼け焦げたのに「証拠」の旗だけが燃えなかった
――2013年以降、北京やウルムチなど複数個所で爆発事件が発生し、当局が「ウイグル人組織のテロ」と発表しているものもあります。どうお考えですか。
イリハム ウルムチでは2014年4月30日に駅前で、5月22日には市中心部で爆破がありました。大勢の犠牲者が出た痛ましい出来事です。公安当局は、監視カメラに映っていたとしてウイグル人容疑者を発表しました。ところが、この人物が現場付近を歩いていた映像は公開しても、犯行に及んだときの決定的な瞬間は出てきません。ウルムチ市内には6万台の監視カメラが設置されているのをご存じですか。これだけ徹底チェックしているのに、爆発物を投げ込んだ犯人が撮影されていないとは考えられないでしょう。
北京・天安門に車が突入、炎上した2013年10月28日の事件も、ウイグル人が犯人として死刑判決が出ました。しかし、当局発表は不自然な点が多い。車中には「少数民族の文字」で「宗教的なメッセージ」が書かれた「黒い旗」が残されていたといいます。ところが車は400リットルのガソリンを積んで炎上したはず。車が焼け焦げたのに布製の旗だけが燃えなかったというのはあまりに不自然です。
これらの事件は「ウイグル人の犯行」と認める人もいますが、一方で「当局の自作自演」と疑う声も少なくありません。
外では「反日」、内では少数民族を弾圧
――ただ、こうした事件が続くと「ウイグル人は危ない」という印象が定着するかもしれません。ウイグル人の置かれた現状をどのように訴えていきますか。
イリハム 仮に爆破事件を起こしたのがウイグル人だとしたら、それは個人の怒りを爆発させただけの短絡的な犯行で、ウイグル人社会にどれほど悪影響をもたらすかに思いを巡らせておらず、手法も考え方も私は全く賛成できません。
一方で今は、ウイグル人が中国において正当な方法で権利を主張することなど不可能なのも事実です。もともとウイグル人が多い地域ですら、後から入ってきた漢人に職を奪われて経済を握られ、ウイグル文化は軽視され、イスラム教の信仰までもが妨害されています。いまや「恐怖政治」が敷かれ、治安部隊はやりたい放題、ウイグル人は口をつぐむしかありません。
中国では今、多くの社会矛盾のせいで国民の間でたまりにたまった不満が爆発寸前です。そこで習近平指導部は、外では「反日」をエスカレートさせ、内ではウイグル人やチベット人、モンゴル人といった少数民族を弾圧することで、漢人の怒りの「ガス抜き」をねらっているのです。また、爆発事件をウイグル人の犯行だと宣伝すれば、政府に不満を持っている漢人の知識層が「ああ、ウイグル人はやはり危険な存在だ」と警戒するようになり、私たちは一層不利な状況に追い込まれるでしょう。
繰り返しますが、中国のウイグル人は厳しい監視下にあり、自分の命を守るのが精いっぱいの日々です。海外に住む我々がウイグル人の置かれている現状を国際社会にアピールし、理解を深めてもらう働きかけを進めています。ただ、中国との経済的な結び付きを優先する国は少なくないため、我々に追い風が吹いているとは決して言えません。
イリハム・マハムテイさん プロフィール
イリハム・マハムテイ 中国・新疆大学卒業後2001年に来日。IT企業勤務を経て08年に日本ウイグル協会を設立する。ノーベル平和賞にノミネートされたウイグル人活動家、ラビア・カーディル氏とともにウイグル人の人権問題解決に取り組む。