大槌町の町方(まちかた)と呼ばれる中心市街地で、遺跡の発掘調査が進められています。200年から300年前の江戸時代の「町方遺跡」です。遺跡は復興事業の盛り土工事で半永久的に埋もれてしまうため、町教育委員会埋蔵文化財調査課が記録保存に乗り出しました。
江戸時代、大槌町には南部藩の大槌代官所が置かれていました。代官所は「大槌通」23カ村を統治し、大槌町は、沿岸の政治、経済の中心都市として栄えました。大槌町の町並みは、代官所を中心に広がり、「町方遺跡」は、その町並みの一角にある旧商家の跡地です。発掘調査では、建物や水路の遺構、陶磁器の破片、古い銭貨(せんか)などが発見され、古文書に残されている代官所時代の歴史を改めて確認することが出来ました。
8月3日に現地説明会がありました。説明会には約70人が参加し、発掘調査の現場や出土品を観察し、当時の生活に思いをはせました。町埋蔵文化財調査課主査の小向裕明さんは「江戸時代の遺跡の発掘は県内では珍しく、震災が調査につながりました。近世から近代に至る大槌町の歴史の一端に光があてられ、故郷を見直す機会にもなりました」と話しました。
7月15日には、大槌中学校の1年生が発掘作業を体験学習しました。来年度、小中一貫教育で完全導入される「ふるさと科」の授業一環です。作業前に、伊藤正治教育長が「タイムマシーンに乗った気分で過去の旅に出よう。江戸時代に思いをはせながら作業しよう」とあいさつ。生徒たちが移植ベラで土を掘り下げていくと、陶磁器のかけらなど、江戸時代の生活の痕跡が次々と見つかりました。大槌中1年生の菊池克(かつみ)君(12)は「いろいろな遺物がどんどん出てきて楽しい。江戸時代の暮らしがわかりすごく勉強になりました」と感想を述べました。
大槌町民は代官所時代を誇りに思っています。津波は中心市街地を押し流しましたが、地中に眠っていた当時の遺跡をよみがえらせました。これらの遺跡群は、盛り土により、また地中に埋め戻しされますが、復興まちづくりに向けて、町民に、力と勇気を与えてくれることでしょう。
(大槌町総合政策課・但木汎)
連載【岩手・大槌町から】
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