「日中偶発軍事衝突」は起こるのか(5)
中国空軍はなぜ危険行為を仕掛けるのか 自衛隊機に異常接近繰り返す背景
元駐中国防衛駐在官・小原凡司氏に聞く

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空軍の中に「危険行為を許したり助長したりする空気」

――戦闘機の側から接近してくるということは、「戦闘機はスピードを落とすので安定性が悪くなる」ということですね。

小原 乗っている人間は、失速(ストール)の兆候を感じるはずです。訓練の中では何度もストールの状態に入れて、ストールに入る兆候というのを体感しています。そうならないためのスキルを身につけています。少なくとも01年の事故を起こした中国側のパイロットは、それが身についていなかったのでしょう。今回についても、小野寺防衛相の話によると、非常に乱暴な近接をしている。そういうことを平気で行うのは、素養と技量の低さを表しています。

―― 一連の異常接近事案では、現場のパイロットが「火遊び」をしたのでしょうか。それとも、上司の指示によるものでしょうか。

小原 現場のパイロットは「日本に対して何かやってやりたい」という自己顕示欲を持っていて、それが危険行為につながっています。危険行為が英雄的行為だと思い込むことは、現場の素養の低さを表しています。今回の技量の低さを見ると、中国軍のパイロットの訓練が十分に行き届いているのか疑問を感じます。ただ、こうした行為が繰り返されているということは、空軍がこうしたパイロットの行為をとがめていないということでもあります。危険行為を許したり助長したりする空気が空軍の中にあることを示しています。

―― 中国からすれば「やって当然」なのでしょうか。それとも「本来はすべきではない」と認識しているのでしょうか。

小原  2013年1月に中国海軍の艦艇が海上自衛隊の艦艇に火器管制レーダー照射をした事案では、国防部の声明では「やっていない」と否定しています。その際、中国側は「日本が中国の国際社会におけるイメージを低下させるためにねつ造した」とも述べています。これは裏を返すと、中国自身が「レーダー照射は国際的に非難されるべき事案だ」と理解していることを示したことにほかなりません。もし今後も中国がレーダー照射を繰り返せば「中国が批判されても仕方がない」ことを表明したようなものなので、再発はないとみています。国防部、指導部が「海軍はコントロールできる」と認識しているからこそできる発言です。
   01年の海南島事件や14年の異常接近事案についても、危険だということを上層部は理解している。ただ、声明で「やっていない」とは言い切れなかったのは、中央が空軍を完全にコントロールできていないからだと想像します。その直後に2回目の接近事案が起きた際には、国防部が「日本側が異常接近している」と非難しました。これは1回目よりも進歩しています。中国側が異常接近は危険だと認識していることを公にしたからです。
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