領空侵犯を認めてしまったら航空自衛隊の存在意義がなくなる
―― 日中双方、それぞれに「領空侵犯をされた」と受け止めるわけですね。
潮: 国際法上のルールでは、軍用機に対しては、警告をしても従わない場合には、撃墜を含めた措置をとることになっています。日本側にとっては武器を使用する要件を満たすことになりますが、軍用機が軍用機に武器を使ったら「撃墜」です。ミサイルを発射する引き金を引く一歩前の出来事として、「レーダーロックオン」という行為があります。これまでは、例えば船から海上自衛隊の航空機、つまり戦闘機ではない自衛隊機に対するレーダー照射でした。ですが、今説明しているケースでは、両方が戦闘機だということになります。戦闘機が別の戦闘機にロックオンされたということは、撃墜されたに等しい。
ロックオンされた場合でも、相手の背後に急旋回したり、熱や銀紙のようなものを相手機に放ってレーダーの「目くらまし」をするなど多少の対応策はありますが、高い確率で撃墜されるリスクがあると言えます。
ロックオンされた戦闘機は、必死に逃げることでしょう。この状態を犬同士で追いかけ合う様子になぞらえて「ドッグファイト」と言いますが、ドッグファイトを他国機が目撃したら、空中戦が行われていると受け止めるでしょう。実弾が発射されなかったとしても、レーダー照射後にドッグファイトが行われれば、地域の緊張は一気に高まります。このことは起こりうるシナリオとして考えなければなりません。
―― 中国が「領空侵犯された」と受け止めた結果、日本側に攻撃を仕掛けてくることはあるのでしょうか。
潮: 中国が突然武力攻撃をすることはないと思います。そんなことをしたら、日本も個別的自衛権を行使して防衛出動し、堂々と武力を行使できるからです。日米安保条約の第5条の「武力攻撃を受けた場合」という要件も満たしてしまう。そこで、一見漁船に見える船で来たり、漁民に見える海上民兵を使うなど、色々なことを考えると思います。中国側がいきなり攻撃を仕掛けてくることはないにしても、戦闘機同士の接触やレーダーロックオンで、当初は意図していなかったにもかかわらず、それが双方における軍事衝突の発端になることは十分にあり得ます。「尖閣は日本固有の領土」と、これだけ突っ張っているわけですから、日本側も1歩も引きません。この領空侵犯を認めてしまったら航空自衛隊の存在意義がなくなります。一気に緊張が高まるでしょう。