民主政権では「警戒警備の手法に極度の縛りがかけられていた」
―― 一定期間は捜索が集中的に行われるとして、その後、日中政府はどのように対応するのでしょうか。
潮: 生存への望みが少なくなるのと反比例する形で世論が沸騰する。だからと言って、自衛隊の行動が攻撃的になるわけではありません。むしろ、今まで行ってきたことに怒りを込めながらも粛々と行う。その時の内閣や大臣の判断によっては、日本側がより消極姿勢に転じる可能性すらあります。例えば、「同様の事案の再発を防ぐために、中間線をまたいで中国側に近づかないように」といった指示が出るかもしれません。実際に民主党政権はこれに近い姿勢でした。後に安倍首相が13年3月7日の衆院予算委員会で、
「前政権下においては、過度にあつれきを恐れる余り、我が国の領土、領海、領空を侵す行為に対し当然行うべき警戒警備についても、その手法に極度の縛りがかけられていたというふうに私は承知をしております」
と答弁しています。反面、中国側がそうなる可能性はないでしょう。これまでの日本との関係や、南シナ海をめぐる周辺諸国に対する対応を見ていると、むしろ中国は高圧的な姿勢を重ねるでしょう。
―― その結果、日中が「一戦交える」ことになってしまうのですか?
潮: それはないでしょう。日本側は中国側に強く抗議するものの、中国側は「受け入れられない」と強硬姿勢を貫く。世論は沸騰するでしょうが、国と国の関係は、じつはあまり変わりません。
―― では、仮に日中が「一線交える」ことがあるとすれば、それはどういう場合なのでしょう。
潮: 一番リスクが高いのは、尖閣諸島の島や岩、領海の上で日中双方の軍用機が異常接近するなどした場合です。そうなるとどうなるか。日本側にとっては、自衛隊法を根拠にした「領空侵犯」に対する措置をとることになります。正当防衛または緊急避難の要件に該当する場合は、武器の使用ができます。これは政府が国会答弁で明らかにしています。他方、中国側にとっても、彼らが設定した防空識別圏(AIDZ)の中であると同時に、彼らが中国領だと主張する島や岩の上空なので、中国の領空だということになる。