航空母艦も潜水艦も南シナ海でしか動けない
――中国の対米核抑止力は効かなかったということになります。
川村: どうして中国は米国の介入を防げなかったか。核ミサイルを相手の国に打ち込む方法には、(1)陸上から弾道弾ミサイルを撃ち込む(2)爆弾を航空機に積んで落とす(3)潜水艦から打つ、の3つがあります。陸上や航空機は相手からの第一撃に弱いので、安全に生き残ることができない。その点、ミサイル潜水艦は水中に隠れることができるのでたとえ自国が全滅しても生き残って報復することができる。しかし中国にはこの確実な報復力が欠けていました。
中国はミサイル潜水艦を持つ必要性を痛感したのですが、太平洋に出ていくと探知されてしまう。冷戦時代には、日米はソ連の潜水艦をほぼ完全に補捉していましたが、中国のミサイル潜水艦は当時のソ連よりも性能が劣りますので、必ず捕まると思います。
ただし、南シナ海は状況が少し違います。東シナ海や黄海は大陸棚で浅すぎ、ミサイル潜水艦にとっては危険です。一方、南シナ海なら水深3000~4000メートルの深海域がいくつかあり、そこにミサイルを積んだ潜水艦を潜らせて米国を狙うという方法を考えました。中国が開発したミサイルは7400キロ程度飛ぶと見られますが、それでも米国全土はカバーできない。アラスカに届く程度です。この射程距離を伸ばすことが中国にとって至上命題です。
―― まずは南シナ海を拠点にして米国に対抗する狙いですね。
川村: 中国はミサイル潜水艦を守るために、海南島の南端の三亜に大きな海軍基地を建設しました。航空母艦「遼寧」もここに配備した。遼寧は米空母と比べると性能が劣るので、有事に外に出ていけば即座にやられてしまう。搭載している航空機の性能が低いため、自分を守ることすらできないからです。結局、陸上基地の飛行機に守ってもらうしかない。そのため遼寧は陸上の基地から飛行機がカバーできる範囲でしか動けない。
つまり、行動範囲は南シナ海に限られます。逆の見方をすれば、南シナ海に限っては、米軍の哨戒機などを追っ払ったりするのには重宝である。