「ニューズウィーク日本語版」を発行する阪急コミュニケーションズが、同誌の売却を発表した。譲渡先は、「TSUTAYA」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)だ。
「本家」の米国でも、長年オーナーだったワシントンポストが売却して以降、短期間で持ち主が変わった。老舗のニュース誌は、これからどこに向かおうとしているのか。
「反日韓国の妄想」と刺激的なタイトルが表紙に踊る
阪急コミュニケーションズの2014年7月31日の発表によると、「ニューズウィーク」のほか「ペン」や「フィガロジャポン」といった雑誌に加えて一般書籍など、宝塚歌劇関連事業とフリーペーパー事業を除いて出版事業全般をCCCに譲渡する。阪急側は事業再編のためと説明。CCCは「TSUTAYA」と「蔦屋書店」を全国で1448店舗運営し、雑誌を販売する店舗も700店を超えているところから、売却先としてふさわしいと見たようだ。
ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。最初は「TBSブリタニカ」が発行していたが、2003年に阪急コミュニケーションズが同誌の事業を引き継ぐ形で設立された。今回の売却で、CCCが3番目の版元となる。
もともとは米国の雑誌だが、「日本版」とはいえ内容は大きく違う。米国版は2010年にオーナーが変わったのだが、当時日本版の編集長だった竹田圭吾氏は2010年5月9日、公式ブログ上で「日本版はビジネスとしてはまったく別物であり、ニューズウィーク日本版がどうにかなることはありません」と明言した。また「経済広報」2012年9月号でも、横田孝編集長が「今では英語版とは全く別物になっている。まだ40%くらいは英語版の記事を翻訳して使っているが。日本というのは編集方針の中の大きなテーマの1つなので、これまでの外国メディアや日本のメディアが伝える日本とは違う発想で、日本を考えていきたい」と発言していた。
確かに近年は、「日本版ならでは」と思われる特集が多い。例えば2013年10月1日号は、「反日韓国の妄想」という刺激的なタイトルが表紙に踊った。その前後でも、2012年9月5日号では「暴走する韓国」、2013年12月3日号でも「アメリカも困惑する韓国の世界観」という特集を組むなど、近年関係が冷え込む日韓問題について思い切った主張をしている。
今回の売却劇は、関係者も驚かせた。竹田前編集長はこのニュースに触れ、ツイッターでひと言「じぇじぇじぇ」とつぶやいた。
米国版は「1ドル売却」、紙版休刊から1年強で復刊
本家の米国版でも、近年は赤字体質から脱却できずに「身売り」を繰り返してきた。2010年、発行元として50年以上運営してきたワシントンポスト社が音響機器メーカーのオーナーにわずか1ドルで売却。大いに話題となった。直後に新興のオンラインニュース「デイリービースト」と合併し、同サイトの創業者がニューズウィーク編集長に就いた。2012年には、約80年続いた雑誌の発行を12月31日で停止し、翌年からオンライン版のみでの記事配信に切り替えた。
ところが2013年8月、今度は米ネットニュース企業のIBTメディアが買収を発表すると、2014年3月から「紙版」を復活させたのだ。わずか1年強で180度転換した格好となり、持ち主も運営方針もコロコロ変わっている印象がぬぐえない。
竹田前編集長は2010年、ワシントンポストが米国版を売却した際にブログで「誰が新しいオーナーになるかによって、ニュースメディアとしてのあり方は変わるかもしれない」と書いていた。日本版の今度の発行元となるCCCは、書店を全国展開する点がこれまでと異なる。今までとは違ったスタイルのニューズウィークに生まれ変わるかもしれない。