交流サイト(SNS)「mixi」を運営するミクシィの株価が、株式分割後の上場来最高値を更新した。スマートフォン(スマホ)向けゲーム「モンスターストライク(モンスト)」が好調を維持し、事業の柱に成長しつつある点が好感されているようだ。
2013年度に上場後初の赤字転落を経験。モンストは復活の救世主と期待されるが、ゲーム事業は浮き沈みが激しい。他のビジネスが育たないと、企業としての持続的な成長は難しい。
スマホゲームの寿命はせいぜい2年
東証マザーズに上場しているミクシィの株価は、2014年7月29日の終値が5190円となり、上場来高値(株式分割後)を記録した。翌30日は終値ベースで下げたが、一時5480円に達するなど勢いは衰えていない。
ミクシィの株価は2013年11月~12月にかけても、一時「ストップ高」を連発して話題になった。ただその時は、急伸したかと思えば大幅下落するなど乱高下が激しく、一部で「仕手戦に巻き込まれているのか」とのうわさもあった。今回は「本物」だろうか。
株価上昇の立役者として挙げられるのが、スマホゲーム「モンスト」だ。2013年10月に投入され、14年7月には世界累計利用者数が1000万人に達した。直近の四半期にあたる2014年1~3月期は、モンスト効果でミクシィの売上高が前期比43.8%増となり、黒字転換を果たす。5月14日の決算説明会では、当時執行役員で6月に社長に就任した森田仁基氏が次年度の通期業績予想について「モンストで安定して高い売り上げを達成することが我々のミッション」と強調した。創業以来、中核事業に据えてきたSNS「mixi」が先細りしているだけに、収益の新しい柱と期待は大きい。
ITジャーナリストの井上トシユキ氏に聞いた。2013年11月の時点では、モンストのリリースから約1か月だったこともあり、株価押し上げの材料と見るには時期尚早としていた。だが、8か月後の現在も好調なことから、「業績に貢献していると言えるでしょう」と話した。半面「ソーシャルゲーム、スマホゲームの寿命はせいぜい2年。モンストの次を準備しないと競合他社に取って代わられ、あっさり潮目が変わる可能性もあります」と指摘した。
しかもゲーム業界関係者は、「今はどんなゲームが当たるか分からない」と嘆いているという。数多くリリースすればヒット作が出るとは限らず、作り込んだ内容より単純な仕掛けのゲームが好評な場合もある。新作ごとに人気をキープし続けるのは、業界でも見通せないほど大変だというわけだ。
「パズドラ」でも簡単ではない海外進出
ミクシィ新社長の森田氏は、2014年7月24日付のオンラインITニュース「TechCrunch」(日本語版)のインタビューで、モンストに続くゲームについて問われると「うーん、どうですかね」とはぐらかしつつ、当面はモンストに注力する意向を示した。特に海外展開を重視し、5月に台湾でリリースした後は中国や欧米も視野に入れているという。
スマホゲームで大成功を収めたガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」も、国内での成功を引っさげて海外市場に乗り込んだ。だが7月29日付の日本経済新聞は、アジアと欧米を合わせたダウンロード数が6月末に700万件前後に達したものの国内に比べて伸びが鈍いと指摘した。確かに国内の2900万件に比べると見劣りする。海外進出は、パズドラでも簡単ではないのだ。ミクシィにとって収益の柱がモンスト一辺倒では、仮に海外で「コケ」て課金収入が落ち込んだ場合、ダメージは計り知れない。
井上氏は、「モンストの『次』が必ず成功するとは言えません。それだけに、他の事業の成長が必須です」と話す。ミクシィはSNSのほかに転職サイトの運営、フォトブック作成アプリ、また2013年には結婚支援を手掛ける企業を買収して多角化を図る。井上氏が注目するのは、結婚支援事業だ。現在、結婚相談業のテレビCMは日本民間放送連盟基準109条「私的な秘密事項の調査を業とするものは取り扱わない」により規制されているが、「CMが解禁されるかもしれないとの話があるのです」(井上氏)。仮にCMが始まって視聴者に宣伝効果が広がれば、事業が一気に拡大する可能性はある。
森田社長は就任前、「ゲームだけでなく、つながりを加速させるサービスを目指す」と話していた。とは言え来年度の業績予想を見ると、明らかに「モンスト頼み」の部分が大きくなっているのは否めない。市場から好感触を得ているなか、8月8日に開かれる決算発表では「モンスト後」を見据えた新機軸を投資家に示せるだろうか。