佐世保市で10年間続く「命を大切にする教育」 女子高生殺害犯の心には届かなかったか

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   長崎県佐世保市で起きた女子高生殺害事件。容疑者は同級生で、取り調べに対し「人を殺してみたかった」と供述するなど、大きな衝撃が広がっている。

   佐世保市では2004年6月、小学6年生の女児が同級生を殺害するショッキングな事件が発生。以後、市内の小中学校で命の尊さを学ぶ取り組みを続けてきた。それでも悲劇は繰り返されてしまった。

戦争体験の学習、本の読み聞かせ、心の健康の講演会を実施

長崎平和公園を訪れて命の尊さを学ぶ学校も
長崎平和公園を訪れて命の尊さを学ぶ学校も

   佐世保市はすべての小中学校を対象に、毎年6月を「いのちを見つめる強調月間」と定めている。市教育委員会に電話取材すると、初日は全校で校長が生徒に向けて、命の大切さに関する講話を行い、また校内を1週間開放して、生徒の保護者や地域住民に見てもらえるように道徳の授業を公開していると説明した。ほかにも講演会を実施したり、平和について学ぶ時間を設けたりと、各種の活動は学校側の判断に任される。

   「佐世保市小中学校ポータルサイト」には、2011年以降の「強調月間」の各校取り組み一覧が掲載されている。比較的多いのが、戦争体験の学習だ。長崎平和公園や原爆資料館の見学、1945年6月28日から29日にかけて発生した佐世保空襲の体験者を招いて当時の様子を聞くといった企画で、生命の尊さや戦争の悲惨さを学ぶ。地域の協力を得て、地元ボランティアによる命を題材にした本の朗読会や登校時の見守り、また難しい年ごろを迎える子どもたちのために、思春期の心の健康に関する講演会というのもある。一方で、地域や保護者との親睦を図るための球技大会、「健康な体作りを目指す」歯みがき指導という内容も見られた。

   2014年7月29日放送の情報番組「とくダネ!」(フジテレビ系)は、佐世保市が「命の教育」に取り入れた教材の一例を紹介した。実話をもとにしたエピソードで、「生まれてから『余命1か月』と宣告された妹を懸命に世話して、妹は5か月まで生きることができた」という内容。家族の愛情が、妹の寿命を少しでも長く支えたことを教えたかったそうだ。

   長崎県全体でも、例年5~7月のうち1週間を「長崎っ子の心を見つめる教育週間」と位置付け、全公立学校で生徒と保護者、地域住民が交流を深める機会を設けている。目的のひとつが「命を大切にする心や思いやりの心の育成」だ。佐世保市はこの時期に「いのちを見つめる強調月間」を設定している。

佐世保市教委「10年間の取り組みは無駄ではなかったと思いたい」

   命の大切さを訴える教育を推進する自治体は、ほかにもある。埼玉県の場合、子どもの自殺を防止するため、教師向けに「自殺予防マニュアル」を配布して指導の徹底を各学校に呼びかけている。愛知県豊橋市は、2010年に中学校の野外活動中にひとりが亡くなったことを風化させないため、事故が起きた6月18日に毎年、市内の全小中学校で命を題材にした道徳の授業や本の読み聞かせ、子どもたちによる「命、安全」に関するスピーチの実施などを続けている。東京都東村山市も、毎年2月1日~7日を「東村山市いのちとこころの教育週間」と定め、市立の小中学校で公開授業や講演会を開催している。

   佐世保市の「強調月間」は、小学生による殺害事件を契機に始まった。1か月という長期間に渡って命の尊さを考える期間を設けているのは、それだけ力を入れている証拠だろう。ところが、開始10年という区切りの年にまたも高校生による同級生殺害という衝撃的な事件が起きてしまった。長崎県教育委員会の池松誠二教育長は、「また長崎かと私も驚いている」と報道陣に話した。

   市教委はJ-CASTニュースの取材に、「10年間の取り組みは無駄ではなかったと思いたい。各校は真剣に取り組んできました」と話す一方、今回の事件を踏まえて「本当に子どもたちの心に届いていたのだろうか……」と戸惑いも見せた。「いのちを見つめる強調月間」を見直す可能性について尋ねると、「今後の動きを見ながら考えていきたい」と話すにとどめた。

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