日本人の死因第1位で、年間約36万人が亡くなっているがん。初期は自覚症状がないことが多く、自分で気がつくのは難しい。しかし、最近の研究で外見からがんのリスクや兆候が読み取れる可能性が出てきた。
そのポイントの一つが「ホクロ」。ホクロの数や見た目が目安になるというのだ。
アメリカで女性看護師74,523人を対象に追跡調査
最近発表されたアメリカとフランスでの研究によって、ホクロの数が多いほど乳がんリスクが上昇する可能性があることが分かった。
アメリカでは女性看護師74,523人を対象に、左の肩から手首までの直径3ミリ以上のホクロの個数を自己申告してもらい、24年間追跡調査した。5,483人が乳がんにかかり、ホクロの数が15個以上の女性では、ホクロがない女性に比べ乳がんになるリスクが1.35倍高かった。
フランスでは女性89,902人に「なし」「少ない」「多い」といった項目でホクロの多寡を調査した。18年間の追跡調査で5,956人が乳がんにかかり、「多い」女性は「なし」の女性に比べ、乳がんになるリスクが1.13倍に高まったという。
では、なぜホクロと乳がんに関係があるのだろうか。これまでの研究で、乳がんにかかりやすくなる要因として授乳歴や初産の年齢、初経年齢、閉経年齢など女性ホルモンが関連したものが挙げられている。
ホクロの数も紫外線だけでなく、女性ホルモンの量が影響していると考えられており、妊娠中にホクロが増えたという女性もいる。今回の研究で乳がんとホクロがホルモンを通してつながった形だ。
ただし、条件によっては危険性の上昇が見られなかった例もある。また、ホクロの数が自己申告であるなど、今後も詳しい研究が必要な状態だ。現状ではあくまで「リスクが上がる可能性がある」にすぎないが、将来乳がんの発生を予測する要素となるかもしれない。
大きくいびつなホクロは危険な兆候
乳がんなんて自分には関係ないと思った男性も、ホクロの見た目はチェックしておいた方がいい。
ただのホクロだと思っていても、実は「メラノーマ」と呼ばれる皮膚がんである可能性があるのだ。皮膚がんは他の部位への転移が早く、進行すると手術や抗がん剤などによる治療が難しい。ホクロに似た見た目のため「ホクロのがん」などとも言われるが、厳密にはホクロではない。
日本での推定患者数は10万人に1~2人程度だが、ホクロだと思っていたものがメラノーマであれば、大変だ。
「形が左右対称性でない」「まわりがギザギザしている」「色が均一でなく、濃淡が混じっている」「直径が6mm以上あり徐々に大きくなっている」といった特徴が2つ以上あると、メラノーマの可能性がある。
とはいえ、素人が表面的な見た目だけでメラノーマなのかホクロなのか正確な判断をするのは難しい。気になったら、まず皮膚科の専門医にダーモスコープという診断器具で調べてもらうといいだろう。
メラノーマが発生する根本的な原因は分かっていないが、紫外線に対する防御が弱いと考えられる白人に多く、皮膚に多量の紫外線を受けることが関係していると考えられる。
肌が白い人はもちろん、野外で紫外線を浴びる機会の多い人は必ず日焼け止めクリームなどを使用して、防御したい。[アンチエイジング医師団 山田秀和]
参考論文:1
Association between Cutaneous Nevi and Breast Cancer in the Nurses' Health Study: A Prospective Cohort Study
doi: 10.1371/journal.pmed.1001659
参考論文:2
Association between Melanocytic Nevi and Risk of Breast Diseases: The French E3N Prospective Cohort
doi: 10.1371/journal.pmed.1001660
山田秀和(やまだ・ひでかず)
近畿大学医学部 奈良病院皮膚科教授、近畿大学アンチエイジングセンター 副センター長。
アンチエイジング医師団
「アンチエイジングに関する正確で、最新かつ有効な情報」を紹介・発信するためにアンチエイジング医学/医療の第一線に携わるドクターたちが結成。 放送・出版などの媒体や講演会・イベント等を通じて、世の中に安全で正しいアンチエイジング情報を伝え、真の健康長寿に向き合っていく。 HPはhttp://www.doctors-anti-ageing.com