大槌町吉里吉里(きりきり)地区に吉里吉里海岸海水浴場があります。吉里吉里の名前には、砂浜を歩くときりきりという音がする鳴き砂説。アイヌ語で白い砂を意味するアイヌ語説などがあります。いずれにしろ、美しい海岸を意味し、震災前は、町内外から多くの海水浴客が訪れる海水浴場でした。
しかし、震災で、地区は壊滅的な打撃を受けました。砂浜はがれきで埋まりました。海水浴どころではありませんでした。それが、今年、震災後、初めて、4年ぶりに海開きが行われました。海開きの7月26日は、町内の小中学校の夏休み初日。夏の日差しが照りつける浜辺には、子どもたちの歓声がこだましました。
海水浴場が復活したのは、吉里吉里海岸のうち横幅約130メートル、岸から沖へ約50メートルの区域。海岸全体の約3分の1にあたります。海岸では、岩手県が防潮堤の建設を計画し、工事の進み具合では来年以降、海開きができない可能性があります。しかし、「子どもたちに海を体験させたい」という地元住民の強い要望を受け、町が、工事に支障がない範囲で開設を決めました。海開きにあたっては、ボランティア団体や地元の人たちが海岸を清掃し、砂浜や海中に、がれきや障害物がないことが確認されました。
海開きは、地元の人たちの切なる願いでした。吉里吉里中学校PTA会長の芳賀新さん(44)はこう話します。「子どもたちには、海の恐ろしさと同時に、海の素晴らしさを知ってほしい。海開きをそのきっかけにしたかった。美しい吉里吉里の海で楽しい思い出をいっぱい作ってほしい」
海開きの期間は8月10日までの16日間。時間は午前8時半から午後3時。現地に簡易トイレを設置、近くに駐車場、シャワー設備が用意されています。 町によると、同海水浴場は震災前、シーズン中に約2万4000人が来場。来季以降は、防潮堤工事の状況を見ながら開設するかどうか判断します。
海水浴場では、7月26日、海開きに合わせて様々なイベントが繰り広げられました。「砂の祭典」は昨年、20年ぶりに復活。今回も多くの人たちが、砂の彫像に挑戦しました。参加者は海水で砂を固めながら約3時間。「南部鼻曲がり鮭」「グローブ」「宇宙戦艦ヤマト」など、様々な作品が完成しました。主催したのは町内の若手経営者による「はまぎく若だんな会」。代表の芳賀光さん(39)は「吉里吉里と海は切り離せない。子どもたちには海の楽しさを味わってほしかった。浜が震災前と同じように、大勢の人でにぎわってうれしい」と話しました。
(大槌町総合政策課・但木汎)
連載【岩手・大槌町から】
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