東京証券取引所は2014年7月22日、売買が多い一部銘柄で「10銭」「50銭」単位の取引を始めた。従来は1円単位だった。きめ細かい値動きにして、売買を活発化させるのが狙いで、実際に、売買高が大幅に増えた銘柄もあった。
ただ、個人投資家からは「売買がしにくくなった」との声も上がる。
みずほの売買高は4倍に
東証が選定する、時価総額と売買高が大きい100銘柄(TOPIX100)のうち80銘柄が対象。みずほフィナンシャルグループ(FG)や新日鉄住金など株価が1000円以下は10銭刻み、ソニーやホンダなど1000円超5000円以下の場合は50銭刻みに変わった。トヨタ自動車やKDDIなど5000円超の20銘柄は従来通り1年単位で変更がない(いずれも22日時点)。
例えば1株100円で株を買った場合、従来なら、少なくとも101円(1%高)で売らないと、もうけは出なかった。100円には買い注文が、101円には売り注文が殺到。理想の価格、タイミングでの取引がしにくかった。
ところが今後は100円10銭(0.1%高)で売っても、証券会社に支払う手数料を除けば、もうけが出る。注文が分散され、より理想に近い価格、タイミングでの売買が可能になる。もっとも、売買できる最低単位が100株または1000株のため、1円未満の代金を支払うことにはならない。
売買高1位の常連で、株価水準が低いみずほFGの22日の売買高は1億9140万500株と、前営業日と比べ4.4倍に増加。終値は変わらずの200円だった。新日鉄住金の売買高は2.1倍で、終値は9円10銭高い313円10銭。株価水準が高い銘柄の売買高に大きな変化がなかったが、「取引の活発化」には一定の効果はあったようだ。
機関投資家向けの変更
東証が刻みの変更に動いたのは、欧米の機関投資家などから「刻みが粗く、売買しにくい」との声が出ていたため。東証は今年1月、3000円超~1万円以下の銘柄について、刻みを従来の5~10円から1円に変更。今回はこれに続く第2弾となる。
欧米では小数点以下まで取引できるようにしている取引所が多く、変動幅が最低0.01%程度というところもある。背景にあるのは、「HFT(ハイ・フリークエンシー・トレーディング)」と呼ばれるコンピューターを駆使した超高速取引。高度なプログラムによって、1秒間に数千回の注文を出し、細かく利ざやを稼ぐ手法で、機関投資家に広く普及している。
この取引で重要なのは値動きが活発なこと。刻みが小さくても、投資額が大きいため、どちらかに動けば利益を上げることができる。逆に、刻みが大きいと値動きが止まってしまうため、利益を生み出しにくいということになる。
だが、個人投資家には利点は少ない。機関投資家のように取引量が多いから、小さな値動きでも儲かるわけで、取引量の少ない個人は変動幅が小さくなった分、大きな利益を得ることが難しくなった。短期売買する個人投資家の場合、注文状況を把握する「板」を見ながら取引を行うことが多いが、刻みが細かくなったせいで、「板」がみにくくなったという。日常生活では「銭単位」を使うことがないため、感覚的に慣れるには時間がかかるとの見方もある。
東証は2015年9月、新たな売買システムの導入する予定で、対象銘柄を拡大するかなどについて検討を進めるというが、プロ、とりわけ機関投資家のテクニカルな取引に一段と偏るようなら、「個人投資家の株式離れを促しかねない」(証券筋)といえそうだ。