日本に住む外国人への生活保護費の支給が、法的に認められるのかどうかが問われた裁判で、最高裁判所は「法律が保護の対象とする『国民』に外国人は含まれない」とする初めての判断を示した。
日本に永住している中国籍の女性(82)が、生活保護の申請を却下した大分市を相手に処分取り消しを求めていたが、その女性が敗訴した。
保護の対象、「外国人は含まれない」最高裁判決に賛否
原告の女性は、出生時から日本で生活していた。2008年12月、大分市に生活保護を申請。しかし、市は十分な預金があるとして申請を却下した。
女性はこの処分の取り消しを求めて提訴。1審の大分地裁は訴えを退けたが、2審の福岡高裁は「永住資格を有するなど、日本人と同様の生活を送る外国人には生活保護を受ける法的地位がある」と女性の訴えを認め、地裁判決を違法と判断したため、上告審へともつれ込んでいた。
2014年7月18日の最高裁は、「生活保護法を外国人に適用する根拠はない。行政措置によって、事実上の保護対象になり得るにとどまる」と判断し、受給を認めた2審の判断を取り消す判決を言い渡した。
生活保護法では「すべての国民」が生活保護の要件にあたるとされており、どのような判断が下されるのかが注目されていただけに、判決後はメディアやインターネットでは賛否が分かれた。
韓国の中央日報(日本語版)は7月21日、「自治体が裁量により外国人に生活保護資金を支給することはできるが、法的に支給を保障できないということだ」と批判。また、香港のサウスチャイナ・モーニング・ポスト紙も、「この判決は明らかに、地方自治体が外国人住居者への支援を停止できる法的権利を与えるもので、多くの自治体が財政危機にある現在、その権利を実行する危険性が高くなる」と、強く批判している。
国内では、メディアの一部が「今後、日本にきて仕事をしようとする外国人がいなくなってしまう」と伝えたほか、「安倍内閣が推し進める経済政策にブレーキをかける恐れがあるのではないか」との見方もあるという。
一方、インターネットでは、
「我々の税金で外国人を養う必要はない。(国に)帰ってもらえばいい」
「最高裁GJ。ただメシ食わせるほど日本は甘くない」
「永住するのであれば、きちんと日本国籍を取得すればいいことだ」
といった、外国人には厳しいコメントもみられる。
外国人の生活保護、10年前から1.9倍増
厚生労働省によると、生活保護の受給世帯数(2012年度)は、全体で月平均155万1707世帯。このうち外国人世帯は4万5634世帯と、全体の3%近くを占める。10年前(02年度)は2万4049世帯で、当時と比べると1.9倍も増えた。
外国人の生活保護費の受給世帯の増加が続く背景には、不景気が長引いたことや高齢化の影響がある。一方、財政悪化が進む地方自治体にとって、生活保護費の増加は頭の痛いところ。必要以上に増やしたくないとの思いはある。
とはいえ、生活に困窮した外国人への生活保護費の支給は、日本に永住する人や難民認定された人などを対象に、各自治体の裁量で支給しているのが現状だ。
外国人の生活保護費の支給について、厚労省は「各自治体の判断です」としている。その根拠は、1954(昭和29)年の社会局長通知「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」だ。そこには、「外国人は法の適用対象とならないのであるが、当分の間、生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取り扱いに準じて…必要と認める保護を行うこと」とされており、厚労省は現行もこの通達が「生きている」と認識している。
厚労省は、「日本人でも外国人でも生活に困窮している場合には、人道的見地から支給が必要になることがあると考えています」(社会局)と説明する。
ただ、今回の最高裁判決で、外国人であることを理由に生活保護の申請を認めないことが「ないわけではないと思う」とも話している。
最高裁の判断があっても「一票の格差」のようにただちに制度が変わらないことは少なくない。また、今回の中国籍の女性のケースは、外国人だからというよりも、預金もあり、生活の困窮度が実態として保護を受けるほどではない、ということに力点が置かれて出た判決とみる向きもある。