今年のプロ野球オールスター戦は、大谷翔平のワンマンショーといった感じだった。
2014年7月19日の第2戦で史上最速タイの162キロ。これは二刀流批判の声を封じ込める1球でもあった。
「すごいですね。いきなりですか」
パの先発としてマウンドに上がった大谷にとってまさに夢舞台の甲子園。花巻東時代に本塁打を放った場所だ。そのホームランを奪った相手がセの先発の藤浪。大阪桐蔭のエースとして12年の甲子園大会で春夏連覇を達成したことは記憶に新しい。
4万5000人を超える大観衆の中で、大谷は最初から快速球を投じた。
先頭の鳥谷に対し、いきなり161キロ。電光掲示板に映し出された数字にスタンドはどよめいた。それは第2球でさらに上がった。162キロ――。
「すごいですね。いきなりですか」
テレビで元投手の解説者が半ば絶句状態だった。どんな速球自慢の投手でも、徐々にスピードを上げ、万全の状態になってから全力で投げるものだからだ。それが最初からトップギア。従来の常識を覆す投球に専門家が驚いた。
この162キロは巨人時代のクルーンが出した記録とタイとなった。
「スピードだけを出しにいった」
大谷は計23球を投げ、160キロ台が半数を超える12球。1点を取られ1イニングで交代したものの、高い入場料に見合うピッチングだった。
阪神マートン「彼と対戦したんだよ、と子供に言える」
対戦した打者は絶賛した。
最初に対戦した鳥谷は「何キロまで出るのか、と思ったよ。いい思い出になった」。
「むっちゃ速かった。(1球目の内角低めを)避けられなかったもの」と言い、クルーンと比べて「質的には大谷の方がかなり上」。
マートンは、大谷が大リーグに行ったときのことを想定して言う。「彼と対戦したんだよ、と子どもに言える」。
今年のオールスター戦は2試合行われたが、完全に大谷フィーバー。一流選手のなかでこれだけの話題を集めたのは久しぶりのことだった。
大谷がプロ入りしてから、投手と打者で進む「二刀流」に対し、様々な声が挙がった。「投手一本でやるべき」「打者にすればタイトルホルダーになれる」から「二刀流など成功しない」まで。
2年目の今季、投手として9勝。打者として1試合2本を含む5本塁打。打率も悪くない。徐々に専門家の先生方の声は静かになった。そんな周囲の声を完全に押さえ込んだのがオールスター戦での快投といえた。
惜しまれるのは、この大谷と対戦する「話題の打者」がセにいなかったことだ。やはり球宴だけに投手vs打者が見たいところである。
かつて巨人長嶋vs南海杉浦は最大の呼び物だった。立大の同級生で、プロ入り以来、チームの柱、球界のトップスター同士。この対決のために入場料を払ったものだ。阪神村山vs東映張本といった対戦もあった。
大谷が注目されたのは結構なことだが、打者のスター選手がいないことももう一つの事実である。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)