韓国でタクシーに乗ると、「日本人なら車から降りろ」と言われた――。アルピニストの野口健さん(40)がこうツイートしたところ、賛否分かれる様々な反響があった。このことについて、J-CASTニュースに説明したいと野口さんから指定があり、事務所で早速、本人に話を聞いた。
自分の態度が悪かったことはないと思う
――今回、なぜインタビューしてもらおうと思ったのですか? ネット上では、差別話に共感する声も多くありますが、ジャーナリストらから「ウソくさい」などとツイッターで批判されたからですか?
野口 そういうことよりも、ツイッターだと、短い文章しか書けないので、理解されにくいと思いました。以前、J-CASTニュースさんに取材して頂いていましたし、第3者の方に聞いてもらう方が、正確に話が伝わるのではないかと思いました。
――タクシーの件は、日本人だから以外の理由は本当になかったのですか? 例えば、態度が悪いと思われてしまったとかです。
野口 夜、飲みに行った後、韓国語はできないので、手を上げてタクシーを呼び止めました。乗車後に、ホテルのカードを出してそれを読むと、50代ぐらいの男性運転手に日本語で「ニホンジン?」と聞かれました。「そうですよ」と答えたら、「ゴーゴー!」と言って車から降ろされました。車は少し走り出していたので、「金は払え」とジェスチャーで言われましたが、目的地まで乗せてくれなかったわけですから「ノーノー」と言ったら車を急発進させていってしまいました。車の中では、「ホテルどこだったっけ?」と日本語でつぶやいたことはありますが、態度が悪かったことはないと思います。
――釜山のサウナに入ったときも、「日本人か?」と聞かれ、「追放」されたそうですが、詳しくお願いします。
野口 あの「追放」という表現は過剰だったかもしれません。サウナでは、一緒に行ったヒマラヤのシェルパの方と日本語で話していると、お店のお年寄りの方が上手な日本語で「あなたは日本人ですか?」と聞いてきました。こんなことを聞き返す方が悪かったかもしれませんが、「日本語がお上手ですね」「お勉強されたんですか?」と言いました。すると、お年寄りの方は、スイッチが入ったように、「違うよ。あなた方、日本人が教えたんじゃないか!」と怒り出したのです。日本統治時代に強制的に教育を受けたのに、配慮のない言い方だと思ったのでしょう。すると、何が起きたんだと周りが騒ぎ出し、困ったなと思っていると、お年寄りの方が「あなたは出て行きなさい」というので、出て行ったわけです。
――韓国人のお年寄りの方は、周りが騒ぎ出したので、気を利かせてそう言っただけではないですか? 本当に「追放」されたのでしょうか?
野口 それはそうかもしれません。確かに、気を利かせたこともあるかもしれませんね。
――ところで、タクシーやサウナの話は、最近のことなのでしょうか?
野口 タクシーは、2001~03年ごろのことです。韓国で日本人客をタクシーに乗せない運動があったとネット上で情報が寄せられましたが、それはもっと前のことで、その繋がりではないと思います。サウナは、タクシーの数年前のことで、1998か99年ごろだと思います。
一部の人の言動かもしれないが…
――では、いずれも10年以上前のことについて、なぜ今になってわざわざツイートしたのですか?
野口 韓国が日本人観光客の激減に危機を感じて日本で誘致イベントをしたという読売新聞のニュースを見たからです。このニュースを見てあの体験を思い出して呟いたわけですが、これほど色々な意味で関心をもたれるとは思いもしなかったです。しかし、これだけ様々な意見が寄せられるということは韓国に対する日本人のフラストレーションがたまっているのかなとも感じます。また、10年前よりも対日感情が悪化している中で、今の方がより大変な状況になっているかもしれないと。韓国からの露骨な日本バッシングが続いています。最近ではロッテホテルで毎年やっていた自衛隊の行事が、抗議が相次いで直前にキャンセルされたというのは、大変なことです。いつだったか都内のホテルで日教組の会合が予定されていてホテル側によってキャンセルされた事がありましたが、確か裁判でホテル側が負けた様に記憶しています。ホテル側がキャンセルするという事はそれだけ大変なことなのです。ツイッターにも呟きましたが、ごく一部の人の言動だと思いますが、旅で受ける印象は良くも悪くも大きい。韓国にプライベートで行くとき、嫌な思いをしてまで行きたくなるでしょうか? むしろ、受け入れる側の韓国の国内でこそどうやって減少した日本人客を取り戻すかとイベントをやったほうがいいのではないかと思います。
――反日感情の強い韓国では、イベントはできないのでは?
野口 でも、日本人を歓迎しますと、彼らは彼らの中で努力しないといけないと思いますよ。それに韓国に親友も沢山いますが、日本人の事を好きな人も多いです。旅行でのインパクトは強いのです。ネット上では今回、韓国人に対してかなりきつい反応もたくさん寄せられています。中には読むに耐えないほど韓国人に対する偏見もありました。日本人は長年がまんしてきましたが、どこかでプッツリと切れてしまったところもあると思います。心配なのはその反動が日本全体を極端な方向に向かってしまう事です。それと僕の呟きも大人げなかったとも反省しています。
【野口健さんプロフィール】
1973年、米ボストン生まれ。父親は外交官だった。日本では小学校の途中まで通い、中高はイギリスで過ごす。勉学に熱中できず、学校からはドロップアウトしたが、旅先で故植村直己氏の著書に感化を受け、登山を始める。モンブラン、キリマンジャロなどを次々と制覇し、亜細亜大学に通いながら、25歳で7大陸最高峰登頂の最年少記録を打ち立てた。その後は、山のゴミ問題に心を痛めて、エベレスト、富士山などで清掃登山をしている。最新刊「世界遺産にされて富士山は泣いている」(2014年6月、PHP新書)など著書多数。