理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダーが2011年に早稲田大学に提出した論文について、早大の調査委員会は2014年7月17日に報告書を公表した。論文には計26か所の問題点があり、うち6か所を不正と認定しているが、早大の規定上「博士号の取り消し要件には該当しない」という。
この結論に対し、研究者や専門家らからは批判や疑問の声が多々あがっている。
「誤って草稿を製本・提出した」主張を認める
報告書によると、小保方氏の論文には文章の盗用など著作権侵害が11か所あったほか、意味不明な記載が2か所、論旨不明瞭な記載が5か所、別の論文の記載内容との不整合が5か所、形式上の不備が3か所あった。
調査委は「論文の信頼性および妥当性は著しく低く、審査体制に重大な欠陥、不備がなければ、博士学位が授与されることは到底考えられなかった」と評した。
小保方氏は、この博士論文は誤って草稿を製本・提出したものだと主張し、今年5月に「当時完成版として提出しようと思っていたもの」として正式とされる論文を提出していたという。
調査委は提出された「完成版」について、当時最終的に提出しようとしていたものと全く同一か認定するには証拠が足りないとしながらも、小保方氏の「誤って草稿を提出した」という主張を認め、著作権侵害の一部などは「過失」とした。
その上で6か所について「不正」と認定したのだが、調査委が出した結論は「博士号の取り消し要件には該当しない」というものだった。
早大の規定では、学位取り消しの要件は「不正の方法により学位の授与を受けた事実が判明したとき」としている。「不正の方法」に「過失」は含まれず、小保方氏の論文では不正と判断された6か所がこれに該当するという。
しかし調査委は、これらの部分について「学位授与へ一定の影響を与えているものの、重要な影響を与えたとはいえない」として、小保方氏の論文にある不正と学位授与の間に「因果関係はない」との判断を下した。
「大隈先生も草葉の陰でお嘆きだろう」
この報告書が公表されると、専門家や識者の多くがこれを問題視してツイッターやブログに見解を寄せた。
東北大学大学院医学系研究科教授の大隅典子氏は17日、自身のブログで「同大学の学位認定基準について、大きな疑問を持たせる結果になったことはとても残念」と指摘した上で、
「これは当該大学のみならず、全国の学位取得者や、これから学位を取得しようとする方々が提起すべき大きな問題だと思います。さらに言えば、日本の『博士号』という資格が世界でどのようにみなされるかという質保証の問題です」
と訴えた。
サイエンスライターの佐藤健太郎氏はツイッターで「この決定で早稲田が失うものは膨大なものになるくらい、わからない人たちであるわけがないだろうに」と指摘した上で「いったい何を守ろうとしてこういう結論になったのだろうか」と疑問視する。
東大理学部教授のロバート・ゲラー氏は「小保方氏の学位を散り消すとしたならば、他にも100件も取り消す必要が生じたかも。憶測ですが、それを避けたかったのでは」との見立てを示している。
サイエンスライターの内田麻理香氏は「大丈夫か早稲田…。これ、大学の信頼を一気に失うよ。まともな人は早稲田で博士号どころか学士号もとりたくないと思うだろう、信頼されないから」「大隈先生(編注:大隈重信)も草葉の陰でお嘆きだろう」などとツイートし、早大の今後を案じた。
インターネット上には早大OB、OGからの嘆きの声も投稿されており、調査委の判断は今後も余波を広げそうだ。
報告書を受け取った鎌田薫早稲田大学総長は「報告書の内容につきましてはこれから早急に精読した上で、委員会の報告結果を十分に尊重しながら、本学としての対応を決定してまいりたいと存じます」とのコメントを出している。