ギニアやリベリア、シエラレオネなど、アフリカ西部で流行している「エボラ出血熱」の感染拡大が止まらない。
世界保健機関(WHO)によると、2014年7月12日までに、この3か国で確認された感染者の累計は964人に達し、このうち603人が死亡した。しかも、死者の数は350人だった6月中旬からの1か月で1.7倍も急増している。
アフリカ西部で大流行したのは初めて
アフリカ西部で広がっているエボラ出血熱は、世界保健機関(WHO)などが状況を発表するたびに感染者と死者の数が増え、収まる気配すらない。
ギニアでの流行は2014年3月、米疾病対策センター(CDC)に最初の症例が報告され、3月末までに感染者80人のうち、少なくとも59人が死亡した。それが4月に隣国のリベリアとシエラレオネに広がった。
エボラ出血熱について、WHOは7月1日、この3か国で2月以降に759人の感染が疑われ、死者は467人にのぼったことを発表。その翌2日と3日には、エボラ出血熱のさらなる流行拡大を防ぐため、3か国とコートジボワール、コンゴ民主共和国、ガーナ、マリ、セネガルなどの周辺11か国の保健相らを集めて緊急会合を開いた。
このとき(2日)公表された3か国の感染者数は、死者481人を含む779人。たった1日で死者が14人増えたことになる。
さらに、7月12日までに確認された感染者は964人に達し、このうち死者は603人と、とうとう600人を超えてしまった。WHOは1週間で、少なくとも3か国で68人が死亡したほか、8~12日に新たに85人の感染が確認されたという。
まさに、「史上最悪」の事態だ。
「外部の人が敵対するコミュニティに入るのは極めて困難。うわさや疑念、敵対心が根強く、人々は孤立し、怯えている」――。ロイター通信などによると、2014年7月15日、世界保健機関(WHO)の報道官はジュネーブで記者会見し、そう話したという。
アフリカ西部でエボラ出血熱が大流行したのは初めてで、WHOは現状に対する混乱や恐怖が広がっている状況とみている。それが感染を抑えられない原因のようだ。
外務省医務官の経験があり、エボラ出血熱に詳しい関西福祉大学の勝田吉彰教授は、「恐怖心からか、感染者を匿ったりするんですね。感染の拡大がなにかの『呪い』と考えられていて、治療させてもらえないことがあります。彼らはそれが悪いこととは思っていないんです」と、現実とは思えないようなことが起こっていると話す。
ロイター通信は、シエラレオネやギニアでは、入院は「死の宣告」と考えられ、数十人の患者が匿われている。また、リベリアでは医療関係者が武装集団に追い返される事態となっている、と伝えている。
感染拡大、制御できるのか?
エボラ出血熱は致死率が90%と、きわめて危険な感染症。予防のためのワクチンは存在せず、治療は対症療法のみだ。
患者の血液、分泌物、排泄物などにふれた際、皮膚の傷口などからエボラウイルスが侵入することで感染。感染の拡大は、家族や医療従事者が患者を看護したり、あるいは葬儀の際に遺体に接したりする際に引き起こされることが報告されている。
現地ではWHOが派遣した専門家や訓練を受けたボランティアが、感染の疑いがある患者の早期発見や、感染者の隔離などの活動を懸命に続けている。2014年7月15日には、世界保健機関(WHO)のマーガレット・チャン事務局長が「事態は深刻だが、制御不能ではない」との見方を示した。
とはいえ、そのための「処方箋」はなかなか見当たらないのが現状だ。エボラ出血熱の感染は、いつ治まるのだろうか――。
前出の関西福祉大学の勝田吉彰教授は、「たとえば、現地では葬儀のときに死者をたたいたりする風習があるようですが、遺体には絶対にさわらせず、亡くなったらすぐに埋葬してしまう。そのようなことが強制的にできれば、感染者や亡くなる人を少なくできると思います」と話す。
ひとつ間違えば人権問題にもなりそうだが、勝田教授は「排除すべきことは強制的にでもやり、医師がきちんと治療できる環境を整えること。そして、時間がかかっても現地の人を教育していくことが必要です」と指摘する。